第12話 道具屋の店主vs生徒会長兼委員長
街の中、道具屋。
あの後、質屋を見付けられなかった五人は、代わりのように道具屋に来ていた。
目的は言わずもがな、金銭確保である。
「ここが異世界なら、俺達の持ち物は未知のものになり、高値で売れないか?」と、精市が持ち物の何かを売って、これからの資金にしようと考えたのだ。
相手にとって未知のものを売るのは、こちらにとってリスクがあると知りながらも、このまま無一文で居ては、今夜の寝床はおろか、食べ物すらない状況。
四の五の言っている場合ではない。死活問題だ。
これは、八重子と精市の話し合いの元、叶太より修也へ伝わり、全員が同意済みである。
ただ、精市だけに何かを売らせる訳にもいかない、と後で自分も何かを売ると言う者も居た。
「それで、何を売りたいんだい?」
この道具屋の店主らしい、椅子に座った小太りの男がカウンターに肘を乗せて問うた。
「買い取りの範囲を聞いても?」
「ふむ、使えるものは何でも。薬草でも魔石でもいいし、雑貨類でも物によっては買い取ってあげよう」
精市の問いに、店主は笑みを浮かべて答える。
そんな男に、雪菜は「胡散臭いおっさん」と、内心で呟く。
「これなんですが、売れますか?」
「ほ、おッ……?!!」
精市が売りたい物──パワーストーンの腕輪を鞄から取り出し、カウンターに置く。
直感力を高める、魔除けのお守り石、アメジストの腕輪だ。
カウンターに置かれた腕輪を見た瞬間、店主が目を見開き、驚愕の声を上げる。
(明らかに目の色が変わった。やっぱり、珍しい? 未知のものになるの? 私達には普通のパワーストーンの腕輪だけど)
雪菜は店主の様子を注意深く観察する。
それは精市も同じようで、すっと目を細めた。
「コホン! 失礼。買い取りはこの腕輪だけかね?」
「今の所は」
咳払いをして店主が確認するように問うのに、精市はそう短く返す。
「そうか……まあ、珍しい品ではあるな。君はこれが何だか分かってて売るんだね?」
「分からずに売る訳ないでしょう?」
「そうだな! 魔道具の効果も知らずに売る奴は居ないよな!」
ハッハッハッハッ──店主が態とらしく笑う。
八重子と歩夢が、このやり取りに何か感じたのか、不安そうに精市を見つめる。
そして、八重子が「いざとなったら私が交渉を……」と呟いていたが、店内を物珍しげに見て回る叶太に「これ見て? 中ちゃん先生~!」と腕を引っ張られ、「え、え? 高城くんっ……?」と薬品棚に連れて行かれていた。
「それで? ここで売ったら、いくらになります?」
「ふむ……金貨六十五枚でどうだろうか?」
店主は僅かに眉を潜めると、口元を手で覆ってそう言う。
精市は「そうですか」と平淡に返し、店主を観察して思考する。
(瞬間的に眉を潜めるのは嘘を付いてる証。口元を手で覆うのは何かを誤魔化そうとしている時。この腕輪が、この世界では魔道具と呼ばれる類になってるのは合っているだろうが、この査定額は恐らく嘘だな。なら……)
精市は唐突に「他を当たります」と、カウンターの腕輪を鞄に仕舞うと、踵を返し、精市と店主のやり取りをしていた雪菜の手を取った。
雪菜はきょとん、と精市を見たが、大人しく引かれるがまま、共に出口に歩き出す。
それに「あ」と八重子や叶太、歩夢も続く。
「ま、待て! 待ってくれ! 金貨八十枚でどうだろうかッ?!」
慌てたように立ち上がると、息遣い荒く店主が声を上げる。
精市は足を止めて振り返ると、ピシャリと一言。
「……正規査定して頂けないのであれば売る気はありません」
冷たく吐き出された言葉に、店主が固まる。
叶太が「ひゅー」と口笛を吹き、雪菜が「おー」と感嘆の声を上げた。
「わ、分かった。悪かった。査定をし直すから……もう一度、見せてくれ」
店主は精市の腕輪を安く買い叩こうとでもしていたのだろう、目に見えて、がくりと肩を落とした。
きっと、変わった格好の精市達を世間知らずとでも、思っていたのだろう。
そして、店主は謝罪しながら、カウンターに両手を付いて頭を下げた。
精市は少し悩んだ素振りを見せてから、カウンターに戻る。
その際、雪菜が「赤坂くん、手」と引かれたままの手を上げて見せたのに、精市は「強引に引っ張って、すまない」と申し訳なさそうに、手を解放した。
雪菜は「別に平気」と返す。
精市は今度こそ、腕輪の査定を再開させた。
(この世界の貨幣制度ってどうなってるんだろう? さっき金貨って言ってたから、金貨、銀貨、銅貨?)
雪菜は雪菜で壁際に寄り、ぼんやり思考しながら、精市と店主のやり取りの観察を再開させる。
その横で、叶太が八重子と歩夢に「赤坂なら大丈夫じゃない?」と告げて、一緒に店内物色するべく二人を手招いていた。
「ふむ、作り手から卸された訳じゃない事から、扱いとしては装備済みの中古。道具としては、装備し易いように腕輪化された魔道具で、効果はステータスの精神値に15%のプラス補正に魔物除け。売値としては金貨百五十枚といった所だろうか」
店主がカウンターの引き出しからルーペを取り出すと、じっくりと腕輪を観察しながら、淡々と語る。
何故、見ただけで、それだけの情報が引き出せるかと言うと、そのルーペは魔道具であり、持ち手に鑑定のスキル(但し、道具限定)を使用可能にするものであった為だ。
(今度は嘘は言っていないか……)
精市が注意深く店主を観察する。
店主は今度は可笑しな反応をせず、しっかりと査定をしているようだった。
「買値と売値が違うのは知ってるね?」
「えぇ、勿論」
「では査定結果だが……金貨百十枚と言った所だがどうだろう?」
「もう一声」
「……そうだな。五枚プラスでは?」
「金貨百十五枚ですね? では、それで」
交渉が進み、店主は先程騙そうとした負い目もあってか、精市の要求を飲み、パワーストーンの腕輪は、金貨百十五枚で売れることとなる。
そして、店主は交渉成立、と腕輪を受け取ると、数えながら、精市の前に金貨を並べた。
「はい、確かに金貨百十五枚頂きます」
金貨の枚数の確認を終え、精市は店主に渡された皮袋にそれを詰め、鞄に入れる。
「あー、青年。物は相談なんだが……」
「何ですか?」
「見た所、街のものではないし、旅人か冒険者……にしては荷物が全然ないだろう? 道具を買っていく気はないかね?」
店主が怖ず怖ずと、精市に問い掛ける。
商売人としては、高額買い取りをした分、何か商品を買って貰いたいのだろう。
精市は少し考える素振りをした後、店内を物色している叶太等三人を視界に捉え、「そうですね、金貨五枚上乗せして頂きましたし、良いですよ」と頷いた。
.
道具屋vs精市でした!笑
予告した通り、お試し版にはないお話です!
次回更新は、夜の19時を予定しております!
以下、おまけ。
◆◆◆◆◆◆
勇人「くああぁ……」(zZZ)
修也「黒井、起きろ。頑張れ」(苦笑)
勇人「……遠野先生、俺はもうねむ────」(zZZ)
真弥「うわ、黒井くん。立ったまま寝てる」(呆)
修也「はぁ」
.