第11話 スキルは有効活用、街中へ潜入しよう
「先生、少しいいですか?」
皆がどうしよう、と首を捻る中、徐に精市が修也と八重子に声を掛けた。
「赤坂くん?」
「何かあったか?」
「俺に考えがあります」
八重子が首を傾げ、修也が問い掛ける。
精市は口元にゆるりと笑みを浮かべて言った。
精市の考えとは、簡単な事だ。
先に少ない人数で向かい、門番と交渉の後に、上手く中に入れれば残りの者達も同様に向かい、もし万が一捕まるような事があれば、逃げる。
そんな作戦だ。
作戦決行メンバーは、赤坂精市、高城叶太、栗原雪菜、本條歩夢、それに中田八重子の五人。
最初は四人の予定であったが、教師として生徒だけを危険に遭わせられないと、同行を申し出たのだ。
何故、このメンバーであり、修也から一見博打のように見える、この作戦決行を許可されたのかと言うと、精市が潜入から、逃走までをしっかりと考えていたからである。
念話のスキルを持つ叶太は、外との連絡係。
仮に捕まってしまった場合、その項を外に伝えられるし、通れたならば通れたで、その様子を伝えられる。
歩夢は瞬間移動のスキルを所持していたらしく、万が一の逃走補助係として。
仮に捕まってしまった場合、牢に入れられようが、縛られようが、目に見える範囲であれば移動可能だそうだ。
精市は作戦の発案者であり、八重子と共に指示者として同行。
雪菜は森での結界能力を買われ、戦闘スキルを持たない女性である、歩夢、八重子の補助役として、精市に声を掛けられた。
美夜が若干心配そうに雪菜を見ていたが、雪菜が「大丈夫だよ」と笑い掛けると、「いってらしゃい、気を付けてね、せつなん?」と見送る。
現状、思い付く作戦はこんなものか、と修也も生徒も、また決行メンバーも頷き、五人はこの方法で、街の中へ潜入する事になった。
「大丈夫かな? いきなりばっさり斬られたりしないかな?」
門へと向かう途中、色は黒で、短く切り揃えられた前髪に、ベリーショートの後ろ髪、瞳も同様の黒で猫目がち、背は低めで、肌は健康的に程よく日焼けしており、顔立ちはまだ幼さを感じさせる女子生徒──バレー部所属の本條歩夢が、その瞳に少々不安そうな色を滲ませて、問い掛けた。
「大丈夫、斬られないよ。その為の俺と栗原さんだからね」
精市は自分を指差したと思うと、雪菜を名指しして、歩夢を安心させるように微笑む。
歩夢は「うん、頼りにしてるよ!」と、笑い返す。
それに雪菜が「名指しされても困る。頼りにするのは赤坂くんにしといた方が賢明だよ」 と補足のように伝えたが、前髪を緩くピンで留めた赤茶の癖ッ毛に茶色の瞳の、一見チャラい、軽そうと言われそうな男子生徒──放送部所属の高城叶太に「いやいや、頼りにしてるよ。声楽部の歌姫さまー」とからりと笑われた為、面倒臭そうに肩を竦めた。
勿論、叶太を睨み付けるのを忘れずに。
何とも和気藹々とした空気が漂う中、八重子は緊張の糸が解れたように、小さく息を吐く。
次いで、八重子と目の合った精市が、意味ありげに笑っていた事から、この空気を精市が故意的に作ったのではないか、と苦笑した。
「じゃあ、行きます。皆さん、気を引き締めましょう」
街の門が近付き、八重子が真剣な表情を浮かべた。
緊張を解すのはここまでで、ここからは気を引き締めて、と。
相手は何せ、武器を持ち、鎧を着た門番なのだ。
「すみませーん」
先ず、始めに八重子が門番に声を掛けた。
それにより、門番が顔をこちらに向ける。
「変わった格好だな。旅の者、か……?」
「それにしちゃ軽装だなぁ」
門番の男二人は、首を傾げ、八重子の格好を探るように見つめる。
視線に耐えられなくなった八重子は、「街に入りたいのですが」と話を切り出す。
一人が「ああ、すまんすまん」と苦笑し、頬を掻くと、もう一人が「少し待て」と、懐からA4サイズ程度の紙束を取り出した。
「ふんふんふん……指名手配はされてないな」
顎に手を添え、一人が紙束と八重子達を交互に見遣り、呟く。
次いで、もう一人が質問を始めた。
「お前達、出身は何処だ?」
「俺達は全員、ここより遠い小さな村の出身です」
男の問いに「え?」と声を零し、一瞬固まった八重子に代わり、精市が返答する。
「そうか。なら、この街には何しに来たんだ?」
「俺達は旅人なのですが、森で灰狼に襲われまして、見ての通り荷物を落とし、旅道具が足りなくなってしまったんです」
「ああ、それでかぁ。災難だったな」
男は精市の話に、同情の眼差しを向ける。
「それにしても、お前達、よく狼の森を抜けようだなんて思ったな? あそこには、地を揺らすものの縄張りがあるは、狼達は群れてるはで危険だろうに……」
「そうなんですか? 俺達、あの森の事を知らずに入ってしまったので……」
「おいおい、知らない森なんて入るなよ。危ないぞ」
「すみません、以後気を付けます」
呆れたような、心配するような目で見てくる男二人に、精市は苦笑して頭を下げる。
そして、男二人は精市達をもう一度順に見ていき、「問題ないな。通っていいぞ」と、門を開いた。
どうやら、街に入るのに何かが必要だった訳ではないらしい。
精市等は軽く会釈し、木造の門を潜り、街の中へ足を踏み入れた。
「ふぅ、良かった。無事に入れたね? 任せきりにしてしまってごめんなさい、赤坂くん。高城くん、遠野先生に連絡をお願いね」
申し訳なさそうに眉尻を下げる八重子に、精市が「いえ」と何でもないように返し、叶太が「任して、中ちゃん先生!」と笑う。
五人は門の近くで立ち止まるのも可笑しい、と街の中を歩き出す。
赤茶や橙色の屋根、煉瓦造りの壁をした建物達に、足下には石畳。
街の真ん中であろう場所には、他の建物より高い時計塔が秒針を刻んでいた。
日本では見られない西洋風の街並みに、歩夢が「わぁ、ファンタジーだ! 外国だ!」と挙動不審気味に辺りを見渡す。
(これ、私いらなかったんじゃない?)
雪菜は内心で呟きながら、四人に付いて行く。
その間、気紛れに鑑定のスキルを辺りに使用しては、ステータスを確認したりする。
そして、鑑定は一回につき、魔力値を1消費する事が分かり、雪菜はもう少し使ったらスキルレベルが上がらないかな、と建物などに試した。
「高城、遠野先生に先に街を見て回っている項も伝えてくれるか?」
「んー」
精市が叶太に頼むと、叶太は頷き、スキル対象を修也にセットして使用する。
(あー、遠野先生聞こえますか? 高城でーす)
程なくして、叶太の頭に、スキルを通して、「高城か、聞こえてるぞ」と修也の声が響く。
(俺達、無事に門を通過しましたー。されたのは、二、三の質問と指名手配の有無なんで、問題なく入れます。あんまり、大人数だと怪しまれると思うんで、人数分けして来てください)
叶太は残りの面子には修也や、口の上手い永久が居るし、彼等なら細かい会話を告げずとも問題ないだろうと判断し、淡々と修也へ語る。
そして、精市に頼まれた伝言を告げ、「分かった。くれぐれも無茶はするな」と言う修也の言葉を最後に、念話を終了させた。
「終わったの?」
「ん? 終わったよ」
「お疲れ様」
「どもー。栗原さんこそ、昨日はお疲れ様。助かったよ」
叶太が小さく息を付くのが見え、雪菜は鑑定の使用を止めて、念話が終わったのか、と話し掛ける。
叶太は雪菜が自分に話し掛けてきた事に、少々驚きながらも、笑って答えた。
「高城、栗原さん」
不意に、精市が二人を呼ぶ。
二人は首を傾げて、精市を見た。
「これから質屋を探そうと思っているが、二人の意見が聞きたい」
「別に、私はそれでいいよ」
「俺も意義なしかな」
精市の言葉に、思わず互いに顔を見合わせた後に、叶太と雪菜は頷く。
それを確認した精市は「そうか、ならこのまま歩いて質屋を探そう」と、前へ向き直る。
二人は特に会話をする事もなく、前を歩く精市、八重子、歩夢に続いた。
宿屋。鍛冶屋。武器屋。防具屋。酒場。花屋。果物屋。魚屋。肉屋。食堂。
様々なお店や、民家を通りすぎて行く。
(これは異世界確定? 今更、コスプレなんて落ちにされても森での事はチャラにならないし、何より……これがコスプレである筈がない)
街中を進む度にすれ違う、日本では見られないようなもの達に、雪菜はぼんやり思考する。
猫耳の獣人や犬耳の獣人。
杖を持った女性に、大剣を背負った男性。
時々、横を通過する、馬車と竜車。
それらが、ここは異世界だと、雪菜に告げる。
他の者達も、雪菜と同様の結論に至ったのか、精市は「やはり世界が違う?」と首を捻り、八重子は「加鳥くんの言う通り、異世界なの?」と困惑し、叶太は「異世界ねぇ。あ、あの猫の獣人ちゃん可愛い」と割りと呑気そうにしており、歩夢は「異世界。か、帰れるかな。うん、大丈夫」と自分に言い聞かせていた。
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街の中、潜入!
次回、12話目はカットしたシーンになります!
次回更新は、日付が変わった頃に投稿を予定しております!
以下、おまけ。
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いのり「中ちゃん先生達、大丈夫かな……?」
美夜「大丈夫大丈夫! 何たってせつなんが居るんだから!」
永久「精市も居るしなぁ」
正樹「文武両道の男子担当と女子担当がセットだし、大丈夫だろ」(笑)
いのり「うん、そうだね」
美夜「そうそう、せつなんとせいちんのセットは強い!」(確信)
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