第09話 使えそうなユニークスキルなら試すべき?
イリス、マリク等が地を揺らすものと交戦する場から離脱した修也他、生徒五名は先に行った八重子等を追って、森の中を駆けた。
その途中、高城叶太のスキルらしい『念話LV3』により、修也の脳に直接呼び掛けが入る。
空元気を装った声で、「あー、テステス。念話のテスト中。あー、あー、あー、あー、こちら、放送部、高城叶太。遠野先生、遠野修也先生、いらっしゃいましたら、至急、職員室……じゃなかった、森の奥、中田八重子先生まで、お越しください」と。
それにより、修也達は八重子達と無事に合流を果たす。
皆、死物狂いで全力で走ったのだろう、息は乱れ 、顔からは疲労が窺えた。
再会の際、美夜が「せつなんんんん!!」と泣きながら雪菜に抱き付いたり、雪菜が「あー、生きてるよ、この通り。うん、なんか、ごめん」と美夜を慰めたり、 真弥の安否を気にしていた女子達が真弥を横抱きにする精市の元に集まったり、正樹が「トワ、この野郎! 心配したんだぞ?!」と永久を蹴ったり、勇人がそんな光景を見て「あれ? 俺心配してる人居ない~?」とぼやいたり、八重子が修也の安否を心配して声を掛けたりと、忙しなくなっていた。
今の所、地を揺らすものが追ってくる様子はなかったのだが、いつこちらに気が付かれるか、追い掛けてこられるかと、気が気でなく、一同は森の出口を目指す事になる。
本来の遭難であったなら、それは愚行であったかもしれないが、現状はその選択が一同にとって最善である。
獣に追われ、獣の蠢く森の中、水場を探して、もしくは救助の見付けやすい高い場所を探して、じっと救助を待つなんて、それは無理な話だ。
何せ、救助が来る確証がない。
ここが何処かも、自分達の置かれた状況すら分からないのだ。
ただ、静かに感じる事は────ここは自分の世界じゃない。
それだけだった。
森からの脱出を決めた一同は、曰く「プリクラ《プリ》切るのに便利じゃん!」と言う南奈の鞄から出てきた鋏で、木に印を付けながら、森の中を彷徨っていた。
休みもなく、ずっと。
定期的に休みを入れようとする修也に対し、遠くから響く獣の遠吠えを恐れた生徒達が、休憩を嫌がったのだ。
修也自身も歩けるならば、一刻も早くここを離れなければ、と言う考えから生徒達の意見を尊重している。
地を揺らすものがこちらを追い掛けてきた時点で、追い付かれた時点で、自分達の命が終わると理解しているのだ。
「中田先生、大丈夫ですか?」
「え? は! はい!! 大丈夫です、大丈夫……」
顔色悪く、明らかに歩行ペースが落ち始める八重子に修也が声を掛ける。
八重子は一瞬首を傾げた後に慌てて頷き、声を上げるが、語尾に近付くにつれて声が小さくなり、大丈夫そうには聞こえない。
それもそうだろう、時間の分からない彼等には知るよしもないが、歩き始めてもう二時間になるのだ。
地を揺らすものとの命懸けの逃走劇を演じた後では無理もない。
やはり休憩すべきか、と修也が頭を悩ませた。
そんな修也に近付く、女子生徒が一人。
「と、遠野先生」
上位置でサイドテールにされた長い黒髪と、少しつり目がちの栗色の瞳に、背丈が低い小柄な女子生徒──図書部所属、立花怜奈が、無表情ながら、怖ず怖ずとした声色で修也を呼んだ。
修也は首を傾げ、「どうした? 立花?」と問うと、怜奈は言い辛そうにしながら口を開く。
「遠野先生、怜奈のスキルなら森から出られるかもです」
確証はないものの、自分のステータスに表示されたスキルならば使えるかも、と怜奈は修也に告げる。
「! どんなスキルだ?」
「怜奈のユニークスキルは『末尾LV5』って言うらしいんですけど、試しに使おうとしたら『森を彷徨うのを末尾に導きますか?』って表示されるのです」
修也の問いに、怜奈が声に自信のなさを滲ませつつも、自分のスキルについてを語った。
それを聞いた修也は少々目を丸くしながらも、思案する。
ステータスが本物であり、スキルが使用可能である事は既に周知の事実。
このまま闇雲に歩くくらいならば、怜奈のスキルに頼るべきではないか、と。
修也は深呼吸するように深く息を吸い込む。
そして、修也は一度歩みを止め、皆に声を掛けた。
「聞いてくれ! この森から出られる可能性のあるスキルが見付かった!」
一同は修也につられるように立ち止まると、その声に耳を傾ける。
「確証はないが、上手くいけば出られる。そんなスキルだ。俺は、これを使って貰おうと考えているが……反対のものが居たら言ってくれ」
修也は自分の考えを告げる。
反対のものが数人居るんじゃないか、と考えていたが、生徒等から反対の声は上がらず、皆略一様に「早くここから出られるなら何でも」と返した。
その為、修也は「じゃあ、話を進めるぞ」と、怜奈のスキルの事を話し、スキル発動の準備を行う。
怜奈のスキルを使うに当たり、人数制限はない事の確認の後に、怜奈の「怜奈と繋がってないと駄目。間接的でも大丈夫」と言う言葉から、皆で円を描くように手を繋ぐ事になる。
端から見れば、少々異様な光景かもしれない。
夜も更ける、森の奥。
大きな円を描くように手を繋ぐ人達。
修也は、怜奈と八重子と。
雪菜は、美夜と永久と……。
そして──怜奈はスキルを発動させた。
「スキル、末尾発動。森を彷徨う怜奈達の物語は、導かれて末尾する」
静かな声で、紡がれた言の葉はスキル発動のトリガー。
言い終わるが早いか、辺りは眩い光りに包まれ────森の中からは、三十二人の姿は消えていた。
◆◆◆◆◆◆
眩い光りは怜奈を軸に収束し、雪菜はそっと目を開く。
手はまだ繋いだまま、その温もりが互いの存在を主張する。
「……? 上手く、いった?」
ぽつり、雪菜の呟きに反応してか、周囲の者達も順に目を開き、辺りを見渡す。
目の前には街道らしき道。背後には森。
どうやら、森を出ると言う目的は達成されたようだった。
「皆、無事だな?」
修也の問いに、皆頷き、固く繋いでいた手を解いてた。
「先生、これからどうすんのー?」
「森から少し離れた後は……野宿、だろうな。日が昇り次第、街を探そう。道があると言う事は、この道を辿って行けば街に辿り着ける可能性が高い。それに、道沿いを歩いていたら、誰か、人間に会えるかもしれないしな」
勇人の問いに、修也はそう返す。
(まあ、そうだよね。この疲労困憊の状態じゃ、どれだけの距離があるかも分からない街を目指すなんて無理がある)
話が、もう少し森から離れた後に野宿する流れになるのを、雪菜は端から見つめる。
特に異議もなければ、意見もない雪菜はそれに加わる事はなかった。
そして、一同は歩みを再開させる。
(ステータスオープン)
歩きながら、雪菜は出来る事を試そうと、内心で呟く。
けれど、その呟きは現実に反映されない。
(口に出さないと駄目なんだ)
ステータスの表示は、口頭でなければならないらしく、雪菜は再び小さく「ステータスオープン」と、今度は口に出して呟く。
(……魔力値は変わらず0のままで、体力値は8から2に減少? まあ、確かに足は重いし凄く疲れているけど。多分、この数値はスキル使用に必要なのが魔力値で、名前の通り体力が体力値であってるかな。ゲームじゃないんだから、体力値がなくなったら死ぬ、なんて事はないだろうから、このまま歩いてもまだ平気か)
雪菜は先頭を行く修也とステータスを交互に見つつ、足を動かし、体力値と魔力値以外に変化の見られないステータスを閉じた。
それから三十分程歩き、一同は道から少しだけ離れた箇所に腰を下ろす。
ここで野宿する事になったのだ。
先の軍人二人が、この道に来ないか、心配ではあったものの、これ以上は困難であると結論付けていたのもあり、交代制で見張り、もし、万が一にも軍人二人が現れた場合は、皆を起こし、逃走する、と言う事で話は纏まる。
最初の見張りは、勇人のグループと修也が行うと告げ、一同は頷くと、各々グループに分かれた。
生徒の約半分は鞄を落としてしまい、何もない状態であったが、鞄をしっかり持っていた者達が飲み物や、お菓子を分け合ったりして、一息を付いた後に、草の上に横になる。
今度こそ、休憩の邪魔は入らなかった。
一気に色々な事が起こり、心身共に疲弊しきっていたのだろう。
直ぐにいびきと、寝息がそこらから聞こえ始める。
雪菜は、いのりと美夜の間に寝転び、寝辛そうに身動ぎして、目を閉じた。
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怜奈ちゃんのスキル発動! 末尾!
次回更新は日付が変わった頃を予定しております!
以下、おまけ。
◆◆◆◆◆◆
美夜「お腹空いた……」
雪菜「チョコ食べる?」
(一口チョコを差し出す)
美夜「う、ううん、大丈夫……それはせつなんのなんだから、せつなんが食べて?」
雪菜「そう」
美夜「うん……」
(ぐう、きゅるるるるる)
雪菜「…………」
美夜「…………」(汗)
雪菜「あーん」
美夜「…………か、かたじけない」
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