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「ん?今なんでもするって」


今しがた見せられた魔王誕生の映像と打って変わって、純白の空間だった。

うっすらと白い靄がかかっており、左右四方や、上の果ては見えずただただ白。

真っ白な毛の長いふわふわの絨毯にあぐらをかいて座り込んだエルダーは、

正面に正座している少女を改めて眺めた。


白い。白いワンピースに白い髪、肌。色素の薄い蒼色の瞳が無ければ周囲に同化して見失ってしまいかねない。

その顔立ちすらも清廉で白にぴったりな美しい少女であった。

そうして淑やかに佇む彼女が言うのだ。


「お願いします。魔王を倒してください。何でもしますから」


「ん?」


悪ノリも程々に、エルダーはひとつ咳払いして、


「全ッ然状況が理解できないんですけど」


「ああ、ごめんなさい。わたし、人とお話するのがひさしぶりで」


少女は照れたような、バツが悪いような表情を浮かべて、そして名乗った。


「わたしの名前はメーティア。此度あなたを呼び出したのは…」


「まって」



メーティア。その名にエルダーは聞き覚えがあった。

自身は神頼みなどした事は無かったが、勢力をましつつあった教会の信仰する神の名として、話に何度も聞いたものだ。

慈愛の女神メーティア。偶然の名の一致などという可能性は考えない。

相手が神であるならこの不思議空間にも説明がつこうと言うものだ。

エルダーはそっと白い絨毯の毛先を撫でる。白い、そう、白すぎるのだ。

本来、一切の不純物の混ざらない白とは決して存在し得ないものだ。

この空間を埋め尽くす混ざりっけの無い白は眩しいほど。


そうそうに話の腰を折り思索するエルダーをメーティアはやわらかな微笑みで見つめている。

それに気づいて、エルダーは続きを促した。


「ごめん。続けてどうぞ」


「気になさらないでください。状況の受け入れがはやいようでなによりです。

それで…あなたを呼び出したのは、かの魔王の暴虐を止めて頂きたいからなのです」


順を追って説明しますね、とメーティアは指を一本ずつ立ててゆく。


「いち、魔王が誕生した。に、魔王強すぎてみんなこまってる。さん、わたしは直接手を出せないのであなたに代理として

人々を助けて欲しい」


いち、に、さん。と、ひとつずつのみこんでいって、エルダーは首を傾げた。


「というか何で俺ここにいるんだ?」


他に気を取られその肝要なところに思考がいっていなかった。記憶を繰り、


「ん?」


褒章を頂戴する為に王宮に行って、そこで大神官とやらと食事を取り、ご高説を聞いていたら眠くなってきて。


「ん?」


エルダーは顔をしかめて曖昧な記憶を掘り返してゆく。

眠くなってきて、警鐘を感じて抵抗しようとして、その間もなく、貫かれるような痛みを感じて。

それきりだ。


「もしかし…死んだのか」


「はい…」


メーティアがなぜか申し訳無さそうな表情で首肯する。


「それなら仕方ないか」


逆にエルダーはさっぱりしたような顔でうんうんと何かを納得している。


「飲み込めました。おっけー、任せといてください」


「…え?」


いともたやすく、メーティアの頼みを請け負い任せろと豪語するエルダーに、

メーティアのほうが困惑してしまう。


「これだけの説明で…それにあなたの死のことだって…」


「だって、困ってるんでしょう?」


そんな彼の言葉を聞いて。

ああ、と、メーティアは胸にすとんと落ちる思いだった。


「それに、です。俺なら出来ると、そう思って選んで、任せてくれるんでしょう?ならやるに是非なしです」


やはりこの人は、


「はい…勇者エルダー。あなたに、お願いします。どうか魔王を倒し、人々を救ってください。なんでもしますから」


「ん?」


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