スポーツ大会(前半)
ーーーーあっという間にせわしなく毎日が過ぎていった。
あの日の帰りに家の前でキスされて以来、
ハルくんは私に一切触れなくなった。
ーーー手も繋いでくれない。
私からそれについて何も言えずに、
ただ毎日、当たり障りのない会話をしながら、
朝は一緒にバスケ部の朝練に行き、
部活が終わると家まで一緒に帰る。
部活では、私も仕事内容を覚えるのに必死で、
昼休みにはバスケのメンバーでスポーツ大会に向けての練習……。
毎日帰るとどっと疲れが出て、
シャワーを浴びて、夕御飯を食べるとすぐに眠りについていた。
ハルくんは、変わらず優しかった。
ーーーーでも、触れてくれない。
手を繋ぎたい、キスして欲しい、抱き合いたい…
でも、怖くて言えないでいた。
どうしてもっと上手に付き合えないんだろう。
私のこと、もう嫌いになったのかな…?
考えると、ネガティブな思いが私を支配する。
これじゃダメだ。
明日、スポーツ大会で一勝できたら…
ハルくんに私の気持ち正直に言おう。
スポーツ大会の前日に、
そう心に誓って眠りにつく。
当日の朝、いつもより早く目が覚める。
ーーーいよいよ、今日本番だ。
家を出るとハルくんも家を出たところだった。
「おはよ」
「おはよ、ハルくん」
「ハルくん、サッカー頑張ってね。私の試合とかぶらなかったら、応援行くね」
「うん、俺も行けたら行くよ」
私の言葉にハルくんが笑顔で応える。
「どこのクラスと当たるのかなー?」
「毎年当日のくじ引きだからな、俺は去年初戦で3年のクラスと当たって、負けたんだよな…」
「そうなんだー、去年もサッカー?」
「うん、まぁ…」
歯切れの悪い返事に、モヤッとした。
ーーーースポーツ大会が始まり、
くじ引きの結果、
うちのクラスは最初にハルくんのクラスと戦うことになった。
「いよいよ、だね」
彩が言う。
「二年生だからって、遠慮しないで、本気で勝ちにいこう!!」
航くんの言葉に、私も仁科くんも頷く。
ーーーーあ、あの先輩は…。
相手チームに、
あの三人の先輩のうちの一人がいることに気付いた。
試合の開始を告げる笛の音で、
ボールが宙を舞う。
ジャンパーの彩が触れたボールが、
航くんの手に渡る。
航くんがドリブルでボールを運び、
ゴール前にいた仁科くんにパスを出す。
仁科くんがシュートしようとすると、
相手チームの男子が阻止しようとジャンプした。
仁科くんはそれを見越していたのか、
スリーポイントラインに立っていた私にパスを回してきた。
ーーーえ。
何とかボールを手にして、
慌ててスリーポイントシュートを放つ。
ーーーが、まったく届かずに手前で落ちた。
「あ…」
やっぱり届かなかった…。
ところが、
そのボールが落ちる前に走り込んできた航くんが、
そのままシュートを決めて、
私達のチームに得点が入った。
「ナイスパス」
航くんが私の近くに来て言う。
「パスじゃなかったんだけど…」
「知ってる」
私の言葉に、噴き出すように笑いながら私に言う。
ーーーーなんだか、すごく楽しい。
しかし、後半になると、先輩チームに追い付かれ、
残り5分のところで逆転されてしまう。
点差は二点。
ーーーー負けたくない…。
私はボールを取りに行こうとする。
すると、ボールを持っていた先輩の足を思いきり踏んでしまった。
足を踏む直前にボールは他の先輩にパスをされ、
試合は続いていた。
「いっ痛ー」
「ごめんなさい…わざとじゃないんです…」
私と一緒に倒れ込んだ先輩は、
あの女の先輩だった。
ーーーーどうしよう思いっきり踏みつけちゃった。
でも試合は続いているから、走ってディフェンスに戻ろうとすると、足首に激痛が走る。
「タイム」
航くんが審判に言うと、駆け寄ってきた。
「茗子ちゃん、歩けないの?」
航くんが足首に触れる。
「う…」
「打撲してる。保健室行こう」
航くんの言葉に、
「あ、俺が代わりに…」
「いや、俺が…」
クラスの応援に来ていた男子が名乗り出る。
「じゃあ、お前らあと頼むわ」
航くんがそう言うと、私をひょいと持ち上げた…。
「あ、おい、航!」
「俺らがこっちかよ!」
不満そうな声が背後から聞こえる。
「航くん、降ろして…私歩けるから…」
ーーーー皆、見てる…恥ずかしいよ…。
「こっちの方が、早いよ」
航くんが前を見たまま言う。
「てか、俺がこうしたかっただけ」
ーーーーーやめて…。困るんだってば…。
保健室に着いて、イスに座ると、
体育館シューズと靴下を脱ぎ、
保健の先生が冷やしてからテーピングをしてくれた。
固定されると、少しだけ痛みが和らぐ。
「全治二週間かしらね。まぁ一週間くらいで痛みは無くなると思うわ」
保健の先生にお礼を言って、保健室を出る。
私は片手で壁に手をついて、なるべく体重をかけないように、片足で歩く。
「肩貸すって…」
「いや、本当に大丈夫!!」
航くんの好意に甘えちゃダメだ。
それだけは…。
「そんなに意識してくれてるの?“男”として」
「え…」
航くんの言葉にドキッとした。
「“友達”だったら、出来たことだよね?」
「そんなこと…」
「甚の肩なら借りてたでしょ?」
ーーーー甚だったら確かに借りてたと思う。
私が答えずにいると、
「ちょっと…」
航くんが強引に肩に腕を回させると、
「体育館まで戻る?」
私に尋ねる。
すぐ隣に航くんの顔があって、私は思いきり顔をそむけてしまった。
「うん、戻ろう…」
私が顔を見ずそう言うと、
航くんが私の髪に触れて言った。
「ずっと言いたかったんだけど、茗子ちゃんのポニーテール、めっちゃかわいいね。俺すっごく好き」
ーーーーやめて…。恥ずかしくて逃げ出したいよ…。
体育館に戻ると、
結局二点差のまま先輩チームに負けて、
バスケは一回戦敗退になってしまった。
「茗子ちゃん、大丈夫?」
「ごめん、負けちゃった…悔しいー!」
愛梨と彩が、私が戻ってきたことに気づいて駆け寄ってきた。
「俺も途中で抜けて、ごめんな…」
航くんが、愛梨と彩と近くにいた仁科くんに謝る。
「いやいや、王子様みたいで、良い画が見れたから許す!」
彩が言う。
「お姫様抱っこで保健室…現実に見れるとは思わなくて興奮したよねー」
愛梨も彩と盛り上がっている。
ーーーー体育館を出て、他の種目の応援に行くことになった。
私は、彩と愛梨に肩を借りて、足首の痛みに堪えながら、歩いてサッカーの応援に行く。
ハルくんは、ちょうど3年のクラスと準決勝の試合をしているところだった。
ーーーハルくん、頑張って…。
私は心の中で応援した。