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いっこの差  作者: 夢呂
【第二章】
95/283

スポーツ大会(前半)

ーーーーあっという間にせわしなく毎日が過ぎていった。


あの日の帰りに家の前でキスされて以来、

ハルくんは私に一切触れなくなった。

ーーー手も繋いでくれない。


私からそれについて何も言えずに、

ただ毎日、当たり障りのない会話をしながら、

朝は一緒にバスケ部の朝練に行き、

部活が終わると家まで一緒に帰る。


部活では、私も仕事内容を覚えるのに必死で、

昼休みにはバスケのメンバーでスポーツ大会に向けての練習……。

毎日帰るとどっと疲れが出て、

シャワーを浴びて、夕御飯を食べるとすぐに眠りについていた。



ハルくんは、変わらず優しかった。

ーーーーでも、触れてくれない。


手を繋ぎたい、キスして欲しい、抱き合いたい…



でも、怖くて言えないでいた。

どうしてもっと上手に付き合えないんだろう。

私のこと、もう嫌いになったのかな…?


考えると、ネガティブな思いが私を支配する。



これじゃダメだ。

明日、スポーツ大会で一勝できたら…

ハルくんに私の気持ち正直に言おう。


スポーツ大会の前日に、

そう心に誓って眠りにつく。




当日の朝、いつもより早く目が覚める。


ーーーいよいよ、今日本番だ。


家を出るとハルくんも家を出たところだった。

「おはよ」

「おはよ、ハルくん」


「ハルくん、サッカー頑張ってね。私の試合とかぶらなかったら、応援行くね」

「うん、俺も行けたら行くよ」

私の言葉にハルくんが笑顔で応える。


「どこのクラスと当たるのかなー?」

「毎年当日のくじ引きだからな、俺は去年初戦で3年のクラスと当たって、負けたんだよな…」

「そうなんだー、去年もサッカー?」

「うん、まぁ…」

歯切れの悪い返事に、モヤッとした。







ーーーースポーツ大会が始まり、

くじ引きの結果、

うちのクラスは最初にハルくんのクラスと戦うことになった。


「いよいよ、だね」

彩が言う。

「二年生だからって、遠慮しないで、本気で勝ちにいこう!!」

航くんの言葉に、私も仁科くんも頷く。



ーーーーあ、あの先輩は…。


相手チームに、

あの三人の先輩のうちの一人がいることに気付いた。


試合の開始を告げる笛の音で、

ボールが宙を舞う。


ジャンパーの彩が触れたボールが、

航くんの手に渡る。


航くんがドリブルでボールを運び、

ゴール前にいた仁科くんにパスを出す。

仁科くんがシュートしようとすると、

相手チームの男子が阻止しようとジャンプした。

仁科くんはそれを見越していたのか、

スリーポイントラインに立っていた私にパスを回してきた。

ーーーえ。

何とかボールを手にして、

慌ててスリーポイントシュートを放つ。


ーーーが、まったく届かずに手前で落ちた。

「あ…」

やっぱり届かなかった…。


ところが、

そのボールが落ちる前に走り込んできた航くんが、

そのままシュートを決めて、

私達のチームに得点が入った。



「ナイスパス」

航くんが私の近くに来て言う。

「パスじゃなかったんだけど…」

「知ってる」

私の言葉に、噴き出すように笑いながら私に言う。


ーーーーなんだか、すごく楽しい。



しかし、後半になると、先輩チームに追い付かれ、

残り5分のところで逆転されてしまう。


点差は二点。



ーーーー負けたくない…。

私はボールを取りに行こうとする。


すると、ボールを持っていた先輩の足を思いきり踏んでしまった。

足を踏む直前にボールは他の先輩にパスをされ、

試合は続いていた。


「いっ痛ー」

「ごめんなさい…わざとじゃないんです…」

私と一緒に倒れ込んだ先輩は、

あの女の先輩だった。


ーーーーどうしよう思いっきり踏みつけちゃった。


でも試合は続いているから、走ってディフェンスに戻ろうとすると、足首に激痛が走る。


「タイム」

航くんが審判に言うと、駆け寄ってきた。


「茗子ちゃん、歩けないの?」

航くんが足首に触れる。

「う…」

「打撲してる。保健室行こう」

航くんの言葉に、

「あ、俺が代わりに…」

「いや、俺が…」

クラスの応援に来ていた男子が名乗り出る。


「じゃあ、お前らあと頼むわ」

航くんがそう言うと、私をひょいと持ち上げた…。

「あ、おい、航!」

「俺らがこっちかよ!」

不満そうな声が背後から聞こえる。



「航くん、降ろして…私歩けるから…」

ーーーー皆、見てる…恥ずかしいよ…。

「こっちの方が、早いよ」

航くんが前を見たまま言う。

「てか、俺がこうしたかっただけ」


ーーーーーやめて…。困るんだってば…。



保健室に着いて、イスに座ると、

体育館シューズと靴下を脱ぎ、

保健の先生が冷やしてからテーピングをしてくれた。


固定されると、少しだけ痛みが和らぐ。


「全治二週間かしらね。まぁ一週間くらいで痛みは無くなると思うわ」

保健の先生にお礼を言って、保健室を出る。


私は片手で壁に手をついて、なるべく体重をかけないように、片足で歩く。


「肩貸すって…」

「いや、本当に大丈夫!!」

航くんの好意に甘えちゃダメだ。

それだけは…。


「そんなに意識してくれてるの?“男”として」

「え…」

航くんの言葉にドキッとした。


「“友達”だったら、出来たことだよね?」

「そんなこと…」

「甚の肩なら借りてたでしょ?」

ーーーー甚だったら確かに借りてたと思う。


私が答えずにいると、

「ちょっと…」

航くんが強引に肩に腕を回させると、

「体育館まで戻る?」

私に尋ねる。


すぐ隣に航くんの顔があって、私は思いきり顔をそむけてしまった。


「うん、戻ろう…」

私が顔を見ずそう言うと、

航くんが私の髪に触れて言った。

「ずっと言いたかったんだけど、茗子ちゃんのポニーテール、めっちゃかわいいね。俺すっごく好き」


ーーーーやめて…。恥ずかしくて逃げ出したいよ…。




体育館に戻ると、

結局二点差のまま先輩チームに負けて、

バスケは一回戦敗退になってしまった。


「茗子ちゃん、大丈夫?」

「ごめん、負けちゃった…悔しいー!」

愛梨と彩が、私が戻ってきたことに気づいて駆け寄ってきた。


「俺も途中で抜けて、ごめんな…」

航くんが、愛梨と彩と近くにいた仁科くんに謝る。


「いやいや、王子様みたいで、良い画が見れたから許す!」

彩が言う。

「お姫様抱っこで保健室…現実に見れるとは思わなくて興奮したよねー」

愛梨も彩と盛り上がっている。



ーーーー体育館を出て、他の種目の応援に行くことになった。

私は、彩と愛梨に肩を借りて、足首の痛みに堪えながら、歩いてサッカーの応援に行く。



ハルくんは、ちょうど3年のクラスと準決勝の試合をしているところだった。



ーーーハルくん、頑張って…。

私は心の中で応援した。


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