あいつの存在 ~春目線~
カラオケ店から、茗子と外に出る。
夕方なのに、まだ明るい。
ーーー仲西の説明で、どういう状況だったのか分かった。
でも…それでもさっきの二人が笑い合う場面が頭から離れない。
俺のクラスの女子達の仕業で
二人きりだったのだとしても、
笑い合う二人の顔は、偽りではない。
ーーー茗子を抱いているときだけは、
茗子を手に入れたのは自分だと実感できるのに。
隣に茗子が居ないだけで、
隣に違う誰かが居ただけで、
心にぽっかり穴が空いたように不安になる。
ーーー身体を自分のモノにしても、心までは捉えられない。
いっそのこと、
茗子を自分の部屋に閉じ込めてしまいたい。
誰にも邪魔されたくない。
付き合えば、幸せが続くと思っていたのに、
仲西の存在は俺の心を乱す。
ーーー絶対渡さない、茗子は。
「ハルくん、今日はごめんなさい」
ーーー茗子が俺に言わなかったのは、俺に心配かけたくなかったから。
そんなこと、わかってる。
「うん」
俺は顔を見ずに答える。
ーーー嫉妬に歪んだこんな表情、茗子には見
られたくない。
家の前に着くと、
「じゃあ…また明日」
顔を見ずにそう言い背を向けると、茗子が俺の背中にしがみつく。
「ハルくん…」
泣きじゃくりながら、茗子が言う。
「嫌いにならないでっ」
ーーーーなるわけないだろ…。
すぐに振り返り、
泣きじゃくる茗子の顔に手を伸ばし、
涙を拭いながら、唇を奪った。
強引に想いをぶつける、
一方的で、自分本意のキス。
ーーーー 『嫌いにならないで』
それは、俺の言葉だよ……。