カラオケ
土曜の10時に駅前にいると、
私と航くんを心配して、
彩と愛梨も来て、付き合ってくれた。
でも、先輩達はまだ現れない。
ーーー連絡先も知らないし…。
「来ないね…」
「ってか、これがすでに嫌がらせだったりして…」
彩と愛梨が言う。
「ごめんねー遅くなってー」
「じゃ行こっかー」
11時になり、先輩達が現れた。
メイクが濃くて、すごく大人に見えた。
「初めましてー仲西くん、今日はよろしくね」
「ども」
航くんが無表情で頭を下げる。
「カラオケとか、行く?」
先輩に言われて、カラオケに向かう。
「何、企んでるのか…全然分かんないな…」
航くんが私にこそっと耳打ちする。
「うん」
「そこの二人、邪魔だから帰って」
カラオケに入る前に、先輩が彩と愛梨に言う。
「え?」
「なんで…」
彩と愛梨が不満そうに言うと、
「あんたたち、仲西くん狙いでしょ?ライバル増えても面白くないわ」
「ってことで、サヨナラー」
呆然としている彩と愛梨を置いて、
先輩達が私と航くんと押し込むように、
カラオケ店に入る。
「仲西くん、一緒に歌いましょー」
ーーーー先輩達に囲まれて、航くんが要望に応えてくれる。
………ごめんね、私のせいで。
「ちょっとお手洗いに…」
暫くして、一人の先輩が言った。
「あ、私も」
「私も行きたかったのー」
結局仲良く三人の先輩が席を立つ。
先輩達が居なくなって、
気が緩んでホッと息をつく。
「航くん…ごめんね」
「え、なに?」
カラオケのテレビ画面にCMが流れ出して、
私の声がかき消された。
航くんが私の声を聞き取ろうと私の隣に座り直した。
「ごめんね…付き合わせちゃって…」
いたたまれない。
「そういえば、初めて茗子ちゃんに声かけたときも、カラオケ行ったよね」
航くんが突然そんな話をする。
ーーーまた、気を遣わせてる…。
「懐かしいな…」
「そうだね」
「本当に覚えてる?」
「覚えて、るよ…」
ーーー行ったという事実は覚えてるけど、
その日のことは何も覚えていない。
あの時は、ハルくんのことで頭がイッパイで。
「じゃあ何の歌歌ったか覚えてる?」
「えーっと…」
「これだよ、これ」
航くんが、検索機を私に見せる。
「あ、そうそう、これ…」
私が話を合わせると、
「ーーー歌ってないし」
航くんが笑って言う。
「騙したのー?」
私もつられて笑う。
ーーーーと、ガチャッとドアが開く。
「茗子…何やってんの?」
「え…」
ハルくんが入ってきて、私は混乱する。
「今日はクラスの友達と遊ぶって…言ってたよな?」
「………」
何から話せばいいのか、私は黙り込む。
でも、考えれば考えるほど、言葉が出てこない。
「クラスの友達ならいますよ、ここに」
航くんが立ち上がると、私の前に立つ。
「友達?そんなこと思ってないくせに…」
ハルくんが航くんに低い声で言う。
「はめられたんですよ、俺達」
航くんも、イラつきながら言う。
「あの先輩達が、春先輩と茗子ちゃん、別れさせたくて。」
「ーーーなんだよ、それ…」
ハルくんが訳が分からないと言うように呟く。
「どうせ、先輩のところにカラオケに茗子ちゃんと俺が二人でいるとかって連絡来たんでしょ?」
ーーーーそういうことだったんだ。
航くんの説明でようやく状況を把握した。
「茗子ちゃんがさんざん嫌がらせされてたの知ってました?上靴なくされて、体操服汚されて、体育館シューズ刻まれて…」
「え…」
ハルくんが驚いて私を見る。
私はうつ向く。
ーーー嫌がらせのこと、知られたくなかった。
「春先輩を諦める代わりに俺を紹介しろって交換条件で、今日会う約束したんです。それで途中で席を立って居なくなった。俺達を二人きりにして、春先輩に目撃させるために」
「茗子、俺に相談しろよ…」
ハルくんが苦しそうに言う。
「ごめんなさい…」
私は目を合わせれず、うつ向いたまま、謝る。
「言えるわけないじゃないスか。言ったら交換条件は無効。それくらい、分かれよ」
航くんがハルくんにイラつきながら言う。
「あんたが、はっきりした態度とらないから、茗子ちゃんが被害に遭うんだろ。そんなんなら、俺、マジで奪いますから」
そう言うと、航くんはカラオケ部屋から出ていった。
私とハルくんが取り残される。
「ごめん、そんなことになってるなんて…気づいてやれなくて」
ハルくんが私をそっと抱き締めてくれる。
私は黙って首をふる。
すると、どこかに電話をかけた。
「もしもし、俺。なんなの、これ。話全部聞いた。本当迷惑だから、俺達にもう関わんな。今度茗子に何かしたら…絶対許さないからなーー」
ハルくんがドスの効いた声で静かに言った。
女の子相手にーーーこんなハルくん、初めてみた。