クラスの仲間
「茗子ちゃん、大丈夫か?」
体育の授業後、教室に一人、先に戻っていた私は、
航くんに声をかけられる。
「ーーー航くん、どうしたの?」
ーーーーそんなに息を切らせて…。
「もう、話し掛けないでって言ったのに…どうして?」
私が困惑して言うと、
「こないだはごめん、俺…やっぱり無理だった」
「え?」
「“友達”も無理だけど、諦めるのも、無理。」
ーーーそれって…。
「だから、気が済むまで好きでいさせて」
「でも私は…」
私が言いかけると、
航くんの手が私の口に、そっと触れる。
「分かってるよ、春先輩が好きなんだろ?良いんだ、それでも諦めたくないって思っちゃったんだから…」
「おいおい、告白かよー」
「仲西、やるな~」
男子が冷やかしながら教室に入ってきた。
「おう!俺は茗子ちゃんが好きだからな。」
クラスの男子に航くんが笑みを浮かべてハッキリと言うと、
「うわ…なんか…かっこいいな仲西」
「応援、するわ、俺たち…」
なぜかクラスの男子が照れながら言う。
女子も戻ってきて、クラスはまた騒ぎ出す。
「え、仲西くんが茗子に?」
男子の騒ぎを聞き付けて、彩と愛梨が私の席に来る。
「ちょっと茗子、どういうこと?」
「春先輩いるのに、仲西くんもキープしてるなんて、ズルい!!」
「キープ…なんかしてないよ」
私が言うと、
「そうだぞ、仲西は純粋に片想い中なんだ」
「お前らは黙ってろよ」
「あの澤野先輩の彼女を好きだって言えるんだからな!!勇者だろ、もはや」
男子が口々に言う。
「もー、じゃあまたイケメンでも探すか…」
「そーだね…」
彩と愛梨がため息まじりに言うと、
「茗子、ごめんね…確かに茗子はなにも悪くないのに」
と謝ってくれた。
「そういや体調はどう?大丈夫?」
「うん、平気…」
なんだか、クラスの中で、
私と仲西くんについてからかうのはタブーだという暗黙の了解が出来た。
なんというか、私と仲西くんをくっつけようという空気すら、感じられた。
その日の帰り、
クラスの皆と話し合いで、スポーツ大会の種目決めをした。
バスケットボールのメンバーは、
彩、愛梨、航くんと仁科くんと私になった。
あとは、その時の空いている人が助っ人で入るということで決まった。
「部活以外の種目限定だからなー、サッカーなら自信あるんだけど」
航くんの席にバスケメンバーが集まっていた。
「あ、私、中学でバスケ、ちょっとやってたよ」
彩が言う。
「ぼ、僕は、運動とか…全然ダメです…」
「そんなの、見なくても分かるわ」
愛梨が仁科くんに冷ややかに言う。
「仁科くん、私も運動苦手だから…」
私が言うと、
「じゃ、来週から昼休み、練習しようぜ」
航くんが言った。
「仲西くんがやるなら、やるー」
愛梨が可愛い声で手を挙げる。
ーーーー航くんとこうやって話していると、
“友達”だと錯覚しちゃうよ…。
チラッと航くんを見ると、目があってしまう。
「頑張ろう、茗子ちゃん!」
笑いかけてくれる航くん。
「うん…」
『気が済むまで好きでいさせて…』
そんなの、困る。
私はハルくんが好きなのに。
航くんをもう傷付けたくないのに…。