嫌がらせ
その日の体育の授業前にも、
私の身にあり得ないことが起こった。
着替えようと体操服を取り出すと、
真ん中に真っ赤なシミが着いていた。
「!!!!」
咄嗟に皆に見られないようにその体操服をしまう。
ーーー何、これ…どうして?
「茗子、着替えないのー?」
彩と愛梨が不思議そうに私を見る。
「あ、うん。ちょっと具合悪くて…保健室で休んでくるね」
「大丈夫?そういえば顔色悪いよ…」
彩が心配そうに言う。
「保健室まで一緒に行こうか?」
愛梨も言ってくれる。
「大丈夫、二人とも授業遅れちゃうよ?」
皆が教室から居なくなったことを確認して、
私はもう一度体操服を広げる。
血かと思ったら、
絵の具だったので少しホッとする。
ーーーーでも、ひどい。私なにもしてないのに。
保健室に行って、ベッドを借りると、
いつの間にか睡魔に襲われてうとうとしてしまう。
「あれ、メイコちゃんだ」
仕切られていたカーテンが一瞬開いたと思ったら、
比嘉先輩が私が寝ていたベッドに腰かけて私を見下ろしていた。
びっくりして、後ずさると、
面白がって、私の上に覆い被さってくる。
「降りてください」
「やだって言ったらどーする?」
「大声出します」
「じゃあ口塞ぐー」
比嘉先輩が、
身動きのとれない私を見下ろして言う。
そして、私の顎に手を添えながら、簡単に顔の距離を縮める。
「誰かっ!!」ーーー助けて!!
私が叫ぼうとすると、
「お前…またか…」
カーテンが開いて、
バスケ部のマネージャーの嘉津先輩があきれたように言うと、
「なんだよ、また樹の邪魔が入った…」
比嘉先輩がうんざりしたように私の上から退くと、
保健室を出ていった。
「ありがとうございました…」
私が言うと、
「それより、お前昨日大丈夫だったか?」
嘉津先輩が無表情のまま言う。
「何がですか?」
私が意味がわからず聞き返すと、
「二年の女子に、思いっきり押されてただろ?」
「あ…」
ーーーー見られてたんだ。
「あいつら、春の熱狂的ファンだからな。お前の存在を本当に煙たがってる。」
ーーーもしかして、心配してくれてる…?
「それと、比嘉には気を付けろよ。あっという間に犯されるから」
「え…」
ーーーあっという間って。
無表情でそう言うと、
嘉津先輩は保健室のもう片方の空いていたベッドに横になった。
「ありがとうございます」
私が言うと、
「…カーテン、締めてけ」
横になって背を向けたまま、嘉津先輩は私に言った。
仕切りのカーテンを締めながら、
私は、謎が解けた気がした。
ーーーあの嫌がらせ、全部あの先輩たちだ。