公認?
「ちょっと茗子、待って」
朝からせわしないお母さんが私の後をついてくる。
「なんで、私もう行くから」
私が玄関で靴を履きながら答える。
「いま、お母さんも一緒に出るからーー」
ーーーー一緒に出なくていいって…。
「おはよう、茗子」
「ハルくん…おはよ」
私はぎこちなくハルくんに挨拶する。
「おはようございます」
ハルくんが、私の後ろにいたお母さんにも挨拶する。
ーーーなんか、気まずい。
「あら、春くん!おはよう!もしかして今日も茗子を待ってたの?」
「はい。あ、一昨日は夕御飯ご馳走さまでした、おいしかったです!」
ハルくんがお母さんににこやかに挨拶する。
「嬉しいわー、また食べにいらっしゃいね」
「ありがとうございます。おばさん、実は話したいことがあったんです…俺たちーー」
「わぁーーっ、ちょっとハルくん…」
言いかけたハルくんの口をあわてて手で押さえる。
「何なの、茗子、そんなにあわてて」
クスクス笑いながらお母さんが言う。
「知ってたわよ?あなた達が付き合い出したことなら。」
「「え…」」
私とハルくんの声がハモる。
「春くんのお母さんも、気付いてわよ」
軽くウインクすると、
春くん、茗子をよろしくねーと手を振りながら会社へいそいそと行ってしまった。
ーーーーお母さんも、ハルくんのお母さんも…
知ってたなんて…。
「バレバレだったか…」
ハルくんが照れたように笑うと、私の手を繋ぐ。
「じゃ、堂々と行こうか!!」
「うん」
こうして手を繋ぐだけで、
ハルくんへの気持ちで胸が暖かくなる。
「ハルくん、そういえば来月の男女混合スポーツ大会、何に出るの?バレーボール?ソフトボール?」
「サッカーかなー。今日決まると思う。」
ーーーサッカーか…。私には無理かも。
「茗子は?」
ハルくんが私の顔を見て尋ねる。
ーーーそれだけのことなのに、愛しくて幸せを感じる。
「私は…バスケにしようかな~。うちのクラスも今日決めるつもり!負けないよ!!」
「お、言うねー」
私の言葉にハルくんが笑う。
「じゃあまた」
「うん、またね」
靴箱の場所が違うので、
いつも私の靴箱の近くで別れる。
ハルくんが行ってしまうのを、
少し名残惜しくて見送ると、私は靴を履き替えようとして驚く。
ーーー上靴が、ない…。
確かに昨日帰るとき、入れたのに。
仕方がないので、
職員室までスリッパを借りに行く。
ーーーこれは、嫌がらせ?ひどい…。
私がイライラしながら、
歩いていると、日直の日誌を持った航くんが、職員室から出てきて、こちらへ歩いてくる。
「おはよ、茗子ちゃん」
私が目をそらして、すれ違おうとすると、
航くんが私に声をかけてくれた。
「え…」
ーーー話し掛けないでって、言ってたのに…。
私が驚いて挨拶しそびれていると、
航くんが私の足元を見て驚いたように言った。
「茗子ちゃん、上靴履かないの?」
「あ、うん…それが、朝来たら無くなっていて…」
「マジかよ…探すの、手伝おうか?」
「ううん、明日買うから大丈夫。今日はスリッパを借りようかと思って」
ーーーーーなんで、
もう話し掛けないでって言ってたのに…。
中学の時に戻れた気がして、
私は泣きそうになった。
「許せねーな、幼稚な真似して!!」
ーーー航くんは、
上靴が無くなって泣きそうになっているのかと思ったのか、私の代わりに怒ってくれている。
ありがとう。
航くんは、本当に優しいね…。