挑む ~航目線~
「仲西くん、ちょっと」
昼休み、クラスの女子が興奮ぎみに言う。
「なに?」
「ーー二年の澤野春先輩が呼んでる」
ーーーなんだよ…。
教室の前に、確かに春先輩がいた。
いま、教室に茗子ちゃんは、居ないようだ。
「なんスか?」
なぜかバスケ部の部室にまで連れてこられ、
あからさまに不機嫌そうな声で用件を聞く。
「今日…茗子を痴漢から助けてくれたんだってね。ありがとう」
ーーー助けてなんかいない。
最初は、見て見ぬふりしていたのだから。
関わりたくなかったから…。
でも、さすがにバスを降りなかった時は焦って…。
「ーー茗子ちゃん、顔合わせづらいって言ってましたけど?もうおしまいじゃないんですかー?」
俺が喧嘩口調で挑発する。
「誰のせいだと思ってんだよ…」
春先輩が珍しく、感情を露にした。
「お前が茗子にキスするからだろ!!」
「そんなに大事なら、もっとちゃんと捕まえとけよ…」
「ーーーお前に言われなくても…」
頭に来ていた俺は、春先輩の言葉を遮っていた。
「捕まえてないから、痴漢なんかに遭うんだろ!
茗子ちゃんが痴漢に遭った後、どんだけ震えてたか…」
ーーーーそして、
震えながら一番最初に言ったのは、
「ありがとう」ではなく「ごめんなさい」だった。
俺が話し掛けないでと言ったから、
助けてと言えなかったのかもしれない。
俺は関わりたくなかったから、
見て見ぬふりしていたのに。
それよりも自分と関わらせてしまったことを気にして…謝ったんだ。
『私は…平気だから、先行ってて』
涙目であんなに怯えて…
それどころじゃないはずなのに、
俺なんかの気持ちを考えて…。
本当に、勘弁して欲しいーー。
春先輩相手に闘うなんて、
無理だって思ってるのに…。
「俺、やっぱり茗子ちゃんが好きです。諦めたくない。―――春先輩、覚悟してください」
言葉にしたら、
無理していた気持ちがスッと消えていった。
ーーー次の恋を探すよりも…、
よっぽど清々しい気持ちになった。
「俺、もう一回、アタックします」