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いっこの差  作者: 夢呂
【第二章】
77/283

サプライズ

「え!!今日…?」

私は思わず声をあげてしまう。


「お母さん、それはあまりに急だよ…ハルくんだって部活何時までなのか分からないし…」


「春くんのお母さん、今日は茶道の会合があるみたいで帰るの遅いみたいなのよー。私は今日定時だったから、一緒に食べましょってお誘いしたんじゃない」


「でも…」

「あら、なんか春くんと咲ちゃんがうちに来たら困ることでもあるわけ?」

お母さんが料理の手を休めずに言う。

「え…別に、そんなこと…ないけど」


「あ、春くんのお父さんは海外出張中でいないみたいよ」

私が動揺しないように努めて、

やっと言えた言葉を、

お母さんはあっさり聞き流して、

料理をしながら喋り続ける。


そして、夕方6時を過ぎても…まだハルくんから連絡はなかった。

試合前だから、きっとまだ練習してるんじゃ…。



「先に食べましょっか」

お母さんが諦めたように言う。

「お母さん、ハルくんは今日の夕御飯の話を知ってるの?」

「あ、そういえば朝会社に行くときに春くんのお母さんと話をしたから、春くん達知らないかもしれないわ…」

もしかして、もう家に帰ってるかも?と隣の家を窓から覗く。


「あら、電気ついてる!茗子、ちょっと呼んできて」

「え、もう…」

人使いの荒い親だわ…


ハルくんからは連絡来てないから、

家にいるのはサクちゃんだろう…。


家の呼鈴を押すと、暫くしてドアが開く。


「サクちゃん、今晩は…」

「どしたの?」

驚いた顔でサクちゃんが言う。

「今日うちで夕御飯食べることになってるみたいだよ、澤野兄弟。」

私が言うと、

「いつも、サプライズだな…」

フッと笑ってサクちゃんが言った。


「そういえば、おめでとう」

サクちゃんがうちの玄関に入る前に、笑顔で言う。

「ありがとう」

ーーーー入学のことなのか、ハルくんとのことなのか…分からなかったけど、お礼を言った。




「咲ちゃーん、いらっしゃい。さ、座って座って」

お母さんが嬉しそうにもてなす。

「おばさん、ありがとうございます…」

サクちゃんがにこやかに言う。



「春くん、遅いわね…」

時計を見ながらお母さんが言う。

「ご馳走さまでした。」

サクちゃんが、立とうとする。


「待って咲ちゃん、春くんの分、お皿に分けるから持っていって!!」

「あ、どうも…」

そして、咲ちゃんが料理を持たされて帰っていく。


「あ、私ったら、買ってきたプリン持たせるの忘れてたわ、茗子、持っていって」

「はいはい」

反論するのも疲れるので、素直に従う。



家を出るとちょうどハルくんが歩いてくるのが見えた。

「ハルくん、おかえり!」

「茗子…。」

ーーーハルくん、すごく疲れてる。


「今日、うちでごはん食べることになってたみたいで、待ってたんだけどハルくん遅いみたいだったからお料理、咲ちゃんがさっき持って帰ってくれたよ。」

「あ、そうだったんだ。おばさんに悪いことしたな」

「ううん、気にしないで、試合前だから、だよね?」

「あ、うん、まぁ…」

ハルくんはなんだか歯切れの悪い返事をする。

ーーーすごい大変なのかな?


「これ、プリン持たせるの忘れたから持って行けって言われて、今ハルくんの家行くところだったんだ!!」

「そうなんだ、ありがと」

ハルくんはプリンの入った袋を受け取ると、

「食べよっか、一緒に」

と、玄関のドアを開けた。

「え?」

「入って」

ハルくんが私の背中にそっと腕を回して、

気づいたら玄関の中にいた。

私の背後でバタンと玄関のドアが閉まった。


「は、ハルくん?」

急にハルくんの部屋に通されて、

なんだか緊張して、声が裏返った。


「お母さん心配するし、私やっぱり帰るよ…」

「茗子?」

ハルくんが帰ろうとした私を後ろから抱き締めた。

私は驚いて、身動きがとれず、息をのむ。

心臓がうるさく音をたてる。


「ーーーーごめん…」

ハルくんが小さく呟くと、私を解放する。

「え?」

振り向いてハルくんを見上げる。


「ーー俺、茗子のこと、物心ついた時には妹扱いしてたよな…」

「どうしたの?」

ーーー急になんでそんな話をするのか、

私には分からなかった。


「それが当たり前みたいな環境で…ほらお互いの親とか兄妹みたいに育ててただろ?」

「うん」

「俺は“お兄ちゃんだから”って言われて育ったから、最初は妹みたいに思ってたはずなのに…。

自分が茗子を好きだって気づいてから…、好きだって気持ちが自分でも驚くほど溢れてきて止まらないんだ…」

「ハルくん…?」


「だから…ずっと気づかないふりしていたのかもしれないって思った。本当の俺の気持ちを……俺が茗子をどんなに好きなのか…それを知ったら茗子が離れていってしまうんじゃないかって、怖くて…。」


ハルくんは私の頬にそっと触れた。

なんだか切ない顔をしたままーーー…。


「だったら“妹”のままでも自分の側に居てくれたらそれで良いって…無意識に自分の気持ちに蓋をしてたんだって……。」


「ハルくん…」


突然の告白に私は言葉に困っていた。

すると、頬に触れていた手を離して、

ハルくんが静かな声で言った。


「…聞いちゃったんだ…噂。ーーー仲西くんとのキスしたって…」


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