友達じゃない
「では、部活希望用紙を提出してください」
朝のホームルームの時間、
教壇に立って、クラス委員の仕事をする。
人前で話すのは苦手だけど、
仁科くんの方が苦手のようなので、
私が代わりに言う。
「茗子、結局、料理部にした?」
希望用紙を提出しながら、彩が言う。
「うん。彩は?」
「私も!」
彩が自分の書いた紙を見せながら言った。
ホームルームが終わり、
教卓で、集まった紙をキレイにまとめようと、
トントンっと揃えていると、
ヒラリと一枚落としてしまった。
「あ…」
落とした紙は、航くんの足元にあった。
気づいた航くんが拾うと、
「ありがとう」
私が受け取ろうと差し出した手ではなく、
教卓に置いて、
航くんは何も言わずに席を立った。
「………」
ーーー航くん。やっぱり私のこと避けてる。
「航くん、待って…。あの…」
私が後を追うと、航くんが立ち止まった。
「茗子ちゃん、ごめん…」
こちらを振り返ることなく、言う。
「俺、やっぱり“友達”にはなれなかった。」
「航くん…」
私は一歩ずつ歩み寄りながら言う。
「私は航くんと前みたいに話したりしたいよ。せっかく同じクラスになったのに…」
すると、突然私の方に向き直った航くんが、
廊下の壁に両手をついて、私を追い詰める。
「茗子ちゃんはさ、俺が好きだったってこと、もう忘れたんだ?」
「こ、うくん…?」
両手で私の動きを封じ込めたまま、
航くんがつらそうに言う。
顔が近くて、男として意識してしまう。
「好きな子に友達として仲良くしてほしいって言われたら、どう思うか…少しは俺のことも考えてくれよ…」
「………」
「俺だって仲良くしたかった。友達になりたいって思った。
でもやっぱり、
茗子ちゃんが“友達”として心を許してくれても、俺は甚みたいな“友達”にはなれなかった。
俺は…知れば知るほど余計に惹かれて…
どうしようもなくて…忘れられないんだ…」
いつも優しかった航くんを、私はまるで気付かずに…。
「俺だってもう諦めて次に行きたい…苦しいんだ…」
切なさに胸がギュウッと締め付けられる。
「だから、もう話し掛けないで」
航くんが、低い声でそう言うと、
両手を壁から離して私を解放する。
私は泣きそうになるのを堪えて、
航くんから背を向けると教室へ戻る。
ーーーー告白の返事をしたあの日、
あの日から私は何回、彼を傷付けていたのだろう。
その優しさに、
全く疑いもせず、“友達”だと思ってーーーーー。