弟
「私立の中学、どぉ?やっぱり勉強難しいの?なんかさ、小学校までは一緒だったから、中学別々だと中々会わないよね」
「うん…」
私が話しかけても、前を見て歩いてる咲ちゃん。
歩くのも、早くて弱冠早足になる。
「あれ、咲ちゃん、また背伸びた?」
「うん、伸びたかも…」
「ハルくんより背高いんじゃない?」
「あのさっ」
突然咲ちゃんが立ち止まった。
「?どしたの?」
「もう、やめてくれない?その呼び方…」
「え?なんで…」
「恥ずかしいんだけど。俺、ちゃん付けとかされたくないし、茗子に。」
「え、でも咲ちゃんは咲ちゃんだし」
なんか分からないけどちょっとショッを受けて口ごもる私に、咲ちゃんが初めて私の顔を見て、言った。
「サク、にして、これから。」
「さ、サク。」
戸惑いながらも、呼んでみると
「うん、それでよし」
なぜか、満面の笑みで私を見下ろす咲。
――サクの笑顔を見るのはすごく久しぶりで……。なんだか胸がぎゅうとなった。
コンビニでお菓子を買って、
他愛ない話をしながら帰ると、
偶然、ハルくんと帰りが同じになり、玄関の前で鉢合わせる。
「ハルくん、おかえり」
「ただいま。…珍しいね、咲と茗子ちゃんが一緒にいるなんて。」
「いいだろ、別に。じゃあな、茗子」
さっきまでの笑顔が消えて、咲はさっさと家の中に入っていった。
「あ、またね、咲。おやすみ―――」
バタンと玄関が閉まった。
「入らないの?」
ハルくんが笑顔で言う。
「入るよ、じゃあね、おやすみ」
目をそらして、それだけ早口で言うと自分の家の玄関に向かう。
「茗子さ、」
家に入ろうとすると、ハルくんが声をかけてきた。
「?」
「好きなやつ、いるの?」
「え……」
なんで、ハルくん、そんなこと、聞くの?
答えられずにいると、ハルくんが言った。
「いや、ごめん、何でもない!忘れて!!じゃ、おやすみ」
なんで、そんなこと言うのー―ー。
忘れたい、って思ってるのに、
近すぎるよ………。
こんな風に顔見ちゃうと…
ツラすぎるよ………。
好きだよ………。