バレンタイン当日の朝
「良かった、会えて!気になってたんだ…」
ハルくんが言う。
「え?」
私が驚いて顔を上げてハルくんを見る。
「――――会いたかった…」
私をギュッと抱き締めて…。
――――その力がだんだん強まってくる…。
―――――苦しい、ハルくん苦しいよ。
自分の呻き声に驚いて、
私はそこで、目が覚める。
―――――夢…。
何いまの夢……。
息苦しくて喉元を押さえる。
なんだか不吉な夢…。
学校へ行ってみると、
朝から男子も女子もなんだかソワソワしていた。
バレンタイン、か……。
中学に入って、
バレンタイン賭け事件があって、
去年はバレンタインを無視したけど、
今年は、
私も渡す予定のある女子の気持ちが分かるよ…。
ここでは、渡す相手も居ないから、
持ってきてないし、まだそこまで緊張してないけど。
「おはよー」
「あ、甚、おはよ。―――あれ?菜奈は?」
「朝迎えに行っても、出てこないから先に来た」
「え、珍しいねー」
靴箱で、甚と会い、そんな話をしていると、
菜奈が走ってくるのが見えた。
「おはよう菜奈」
「お前、今日どうしたよ?」
私と甚が、息を切らせたままの菜奈に言う。
「チョコレート、お父さんに朝勝手に食べられちゃって…それでー―――
作り直してたら…待ち合わせの時間過ぎてることに気が付かなくて…ごめん」
菜奈が泣きそうになりながら言うと、
バッグからキレイにラッピングされた箱を出して、
甚に手渡した。
「はい。今年は、義理じゃなくて、本命。」
照れたように笑いながら菜奈が言うと、
「ありがとな」
甚も照れたように笑う。
―――良いなぁ、ステキだな…。
私は二人の邪魔をしないようにひとり、
教室へ向かう。
クラスでも、
チョコレートのやり取りがあちこちで見られた。
義理チョコ、友チョコ…。
本命チョコはさすがに教室で渡す人は居ないか。
私も今日の夕方。
ハルくんに渡すんだ。
渡しているところを見たら、
なんだか急に自分もドキドキしてきた。
――――受け取ってもらえるかな?