知らないハルくん
「ハルくんさ、どんな髪型が好き?」
「うーん、長いのがいいかな。めいこちゃんみたいに」
「じゃあ、めいこ、髪切らない!!ずっと長くしてるね」
「うんっ」
幼い頃にした会話を夢に見てしまった。
朝から切なくなる。
もう、意味ないのに……。
髪を伸ばしても、
かすみ先輩にはなれないし、
年の差が無くなるわけでもない。
「いってきます」
家を出ると、
ちょうどハルくんの家も玄関が空いた。
「あ、おはよう茗子ちゃん」
ハルくんのお母さんだった。
「おはようございます!!」
「久しぶりね、またかわいくなって~」
「母さん、やめなよ、茗子困ってるから!!」
「!!」
ハルくんのお母さんと家から出てきたのは、私の一つ年下のハルくんの弟、咲だった。
「サクちゃん、久しぶりだね!!」
「うん…」
私が声をかけるとそっけなく足早に学校へ行ってしまった。
「ごめんね茗子ちゃん、あの子最近反抗期だから」
ハルくんのお母さんは苦笑いで謝る。
「いえ…」
「春はお弁当忘れてくし…もぅ…」
「あ、私、届けましょうか?」
「え、でも、中学とは逆方向だし…」
走ればまだ間に合うからとお弁当を預かって高校に向かった。
確かこのバス停って…。
ハルくんが乗るバス停まで走ると、
やっぱりハルくんはバスを待っていた。
良かった、間に合った!!
でも、隣には―――
かすみ先輩がいた。
私はバクバクうるさい心臓を押さえて、
「ハルくん…」
二人がいるバス停に向かった。
「あれ?茗子ちゃん。」
「あ、それ、春のお弁当じゃない?茗子ちゃん、どうしたの?」
「あの…ハルくんのお母さんにさっき会って、忘れてったって聞いて…持ってきちゃいました」
「ありがとう、茗子ちゃん」
ハルくんはいつもの笑顔でお礼を言ってくれた。
「もぅ、すぐ何かを忘れるんだからっ」
かすみ先輩がすかさずつっこむ。
「付き合ってたんですね…ふたり」
つい、口から出てしまった。
あまりに仲が良くて……私の知らないハルくんみたいで………。
「うん、恥ずかしくて誰にも言ってなかったんだけどね」
照れてるハルくん。
幸せそうなハルくん。
諦めるしかないのかな……。
こんなにずっと……好きだったのに………。
二人に背を向けて私は走った。
現実から目をそらしたくて――――。