不意打ち~咲目線~
部活でくたくたに疲れ、家に帰る。
すると、ちょうど家の前に人影が見えた。
「茗子…」
俺の声に、茗子が顔を上げる。
「良かった、待ってたの。おかえり」
茗子が無理して笑った。
―――待ってた?俺を?
「ちょっと、良いかな?」
公園を指差して、茗子が言った。
黙って後についていく。
ベンチに並んで座ると、
茗子が下を向きながら口を開く。
「クリスマス…以来だね」
「あぁ…」
相槌を打つ。
「咲ちゃん…」
――――また呼び方が元に戻ってるし。
…無自覚だろうけど。
俺は思わず、苦笑いを浮かべる。
―――やっぱりどう足掻いても俺は“弟”か…。
「これ、返すの遅くなってごめんね…」
そう言って、茗子が紙袋を差し出す。
中には、あの日茗子の首に巻いたマフラーが入っていた。
「要らない…これは茗子にあげたやつだから」
俺が紙袋ごとマフラーを返すと、
「私は、自分のマフラー持ってるから…咲ちゃんマフラーして?」
紙袋からマフラーを出して、
ベンチから立ち上がると俺の前に立ち、
フワッと俺の首に巻いてくる。
――――ドキッとして、顔が赤くなっていく。
俺はつい手で口元を押さえる。
「ありがとう」
茗子が静かに言った。
「私を好きでいてくれて」
「私、咲ちゃんの気持ち、すごく分かるから…なかなか顔を合わせづらくて」
「俺のせいで、受験出来なかったんだろ?」
「え?」
驚いたように茗子が俺を見る。
「聞いた、受験、風邪引いて受けれなかった…って」
「それは、咲ちゃんのせいじゃないよ…。そういう運命だったんだよ」
「ごめん…」
―――受験の前日に、あんな困らせることして…。
「謝らないでよ、私も謝らないから」
茗子が言った。
―――それは、あの日の俺が言ったことば…。
「咲ちゃん、私、西高受かったら…ハルくんに気持ちを伝えるよ…」
茗子が静かに、でも力強く言った。
その言葉に、俺は何も言えなかった。
いつか、この日が来るって、分かってたのに。
ただ、黙って立ち尽くすしか出来なかった。
何度も言わなきゃいけないと頭では分かっていたのに…“頑張れ”って。