冬休み
あれから風邪が完全に治ったのは三日後で、
学校に行かずにそのまま冬休みに入ってしまった。
先生には、電話で進路変更をお願いした。
私が南高に行くのを期待していたのか、
先生は随分がっかりした様子だった。
私はなんだかこれが、
自分の運命なのではないかと思った。
そう思うと、
やはり南高は行かなくて良かったと思えた。
今日は、ハルくんの家に、
箱菓子を持ってお礼を言いに行くつもりだった。
朝からソワソワしながら、支度をする。
そして、
家を出るとすぐ隣の家のインターホンを押す。
「あら、茗子ちゃん」
おばさんが出て、風邪の心配をしたあと、
気の毒そうに言った。
「南高、受験出来なかったんですってね。茗子ちゃんなら間違いなく行けただろうに…」
「その節は、ご迷惑おかけしました。勝手にお邪魔して…」
私が頭を下げて、箱菓子を手渡すと、
「何言ってるのよ、今さらそんな他人行儀なこと言わないで?私は茗子ちゃんも娘みたいに思ってるんだから…」
おばさんは優しく微笑んだ。
「だからね、茗子ちゃん。困ったことがあったら遠慮しないで?クリスマスの日も、娘とディナーできると思って待ってたんだから!!」
「おばさん…」
おばさんの心遣いに、胸がいっぱいになる。
「ハルくんにも、お礼言いたかったんだけど…今日も部活ですか?」
「そうなのよ!大晦日と、元旦以外は練習ですって」
ー――そっか。
残念のような、ホッとしたような気持ちになる。
「咲もサッカーに夢中で…毎日朝練とか言って、朝早く出掛けて、夜遅くに帰ってくるのよー」
「そうなんですね…」
急にサクの話題になり、
なんとなくぎこちなく相槌を打つと、
私はそそくさと家に帰ってきてしまった。
―――俺も謝らないから、謝らないで。
サクの気持ちはとても切なくて、
胸が痛いから、
考えないようにしていたけど…。
罪悪感でいっぱいになる。
その日の夕方、家にハルくんが来た。
突然の訪問に、
なんの心の準備もしていなかった私は、
顔を見れずにいた。
「風邪大丈夫?」
「うん、おかげさまで…」
「今日わざわざお礼に来てくれたって聞いて」
「あ、うん。本当にハルくん、ありがとう」
「あの時、謝らないといけないことがあってさ…」
――――え?
私は顔をあげると、ハルくんがすまなそうに言った。
「茗子ちゃんの鞄から携帯電話出てきたから、勝手に中見ちゃったんだ…」
「え…!?」
「電話帳…おばさんの職場に電話しなきゃって思って…でも、勝手なことして、本当ごめん」
―――ー電話帳には、
自宅とお母さんの職場、お母さんとお父さんの携帯しか登録されていないので、
私としては、何も困ることは無かった。
「そんなこと、全然気にしないで!!むしろ、電話してくれて、助かったんだし」
私は両手を振りながら言う。
「そっか。そう言ってもらえると助かるよ、俺ずっと罪悪感で…」
ハルくんがホッとしたように笑うと、
私にメモを差し出して、言う。
「俺の番号も、登録してくれる?」