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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
32/283

感情と事情 ~春目線~

―――文化祭まで、あと10日か。


カレンダーを見ながら、俺はなんとなくその日を見つめると、

ついこの間、茗子と二人でリビングに居たときの事を思い出す。



借りていたシャープペンを返しそびれたことに気付くとすぐに玄関を開けたが、

呼んでも返事をしない茗子に、

心配になってリビングへ向かう。


ソファに倒れ込むようにして眠っている茗子の姿に、胸がざわついた。



「茗子……寝てるの?」

呼び掛けても、返事はなく、スヤスヤと寝息をたてている。

とりあえずソファにあった、ブランケットをかけてあげる。


鍵かけろって、言ったのにー-ー。

手が無意識に茗子の髪を撫でる。


すると、眠っている茗子が幸せそうに微笑んだ。



「!!」

なぜかドキッとして、俺は離れて座る。


――――うまく、いかないな。

サクと茗子なら、絶対お似合いなのに。


小さい頃から茗子のことになるとサクは

俺にライバル心を剥き出しにするから直ぐに気付いた。


―――こいつ、茗子が好きなのか。




それからは、茗子とサクの兄として、

二人が上手くいけばと思っていたのに。


―――どうやら、茗子には、最近気になる人がいるらしい。


花火大会の日を思い出す。


“友達”っていってたけど……男の、だよな。

その日にサッカーの応援も行ったって言ってたし。



なんだか、目の前で寝ている茗子(いもうと)が、

急に知らない女の子になった気がした。


かわいい寝顔に、ソファから身をのり出し

顔を近づけようとした時、


ガチャガチャッと玄関の鍵を開ける音が聞こえ、

バッと体を離す。


――――危なかった、俺…今。


「あら、春くん」

おばさんがリビングに来て、俺の姿に驚く。

当たり前だ、もう23時だった。



慌ててシャープペンを渡すと、家に帰った。



――――何、してるんだろう、

俺にとっては大切な妹なのに。




自分の部屋に戻ると、

俺は寝ようとベッドに入り、目を閉じる。


なぜか、

かすみとケンカ別れ話をした夏の日のことばが浮かんだ。



『春は何にも分かってないよ』

『私のこと、好きって言うけど、私が春を好きな気持ちより、春は私を好きじゃない』

『自分で気づかないふりしてるんでしょ、そんな人と一緒にいても、辛い………』


同じクラスで、

今までどうしても上手く女子と距離感をつかめなかった俺が、

告白されることもなく、一緒に過ごせたのはかすみが初めてだった。


彼女は、真面目で、まっすぐな性格で、

一部の女子と衝突することもある、正義感の塊だった。


俺にはない、そんなところが、

気づいたら目で追うようになるきっかけだったんだと、今は思う。


付き合い始めたときは、楽しいことばかりで、

彼女が「好き」だと言ってくれたことも、

誰にも内緒で付き合うことで、

秘密の共有をしていたことも、

何もかもが、幸せだった。


――――二年になると、

かすみはあまり笑わなくなった。

笑っているのに、何か違った。

朝、茗子と一緒に登校すると、

『やめて欲しい』と言われ、

それで何度も口論になった。



ずっと幸せが続くと思っていたのに、

日に日に、かすみは俺に素っ気なくなり

話せなくなった。


そして、夏のあの日、

問い詰めた俺に、

堰を切ったように泣きながら別れ話をされ、

かすみは居なくなった。




――――一緒にいても、辛い…か。



あんなことを言われても、

彼女とはまた同じ高校で、しかも同じクラス。


彼女は、入学するとすぐに、彼氏が出来た。






俺は……

その時、携帯電話の受信音が鳴り、

またか…と、うんざりする。


―――俺はまだ、女子と上手く距離感がつかめない。




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