先輩
「茗子、髪伸びたなー」
休み時間、
菜奈とクラスの友達と話してるところに、
西原 甚が話しかけてきた。
甚は、幼稚園からの腐れ縁。
何でも言い合える唯一の男友達だ。
「伸びたね、そう言われてみれば」
自分の腰まである髪に触れる。
「あ、そうだ、これ、頼まれたんだ。」
甚がこっそり手紙を渡してくる。
「あぁ、また?」
「今度は誰よ?」
菜奈や友達が興味深く見ようとする。
「めいこには、春先輩がいるんだから無駄なのに」
「ハル先輩卒業したから、チャンスとか思ってるんじゃない?めいこ、かわいいから大変だねー!」
口々に言う友達の声を聞こえないふりをして、
甚に手紙を返した。
「要らない」
「いやいやいや、そんなこと言うなよ、頼まれてる俺の身にもなれって」
「言いたいことがあるなら、直接言いに来ればいいじゃん。こんなの」
「言えないだろ、好きな人目の前にっ」
甚がいつになく声を荒げた。
一瞬、
自分の気持ちを言われたのかと思って俯く。
甚は手紙を私の手に握らせると、
席を離れていった。
―――そうだよ、言えないよ…。
ハルくんを目の前にして「好き」だなんて。
幼い頃にお互い「好き」「好き」言ってた記憶がよみがえってまた切なくなる。
無邪気に「好き」って…言えなくなったのはいつ?
彼が、私以外に、「好き」って言ったのは、いつ?
「茗子さ、私のこと好き?」
菜奈が帰り際に突然、
変なことを聞いてきたので、私はびっくりした。
「え、うん。」
「好き?」
「え、だから、好きだよ?」
戸惑いながら、言う。
「あー良かった、言えるじゃん、好きって」
「?」
「なんで、言わないのかなーって。ハル先輩に。」
突然ハルくんの名前が出てきて鼓動が高鳴った。
「埋まらないんだよ…」
ざぁぁと風が吹き、木々の揺れる音と同時に、
私の言葉も舞う。
「え?なに?も一回言って!?」
菜奈は当然聞き返した。
「―――ハルくんとはどう頑張ってもさ、年の差が埋まらないじゃん…。」
「めいこ…」
「知ってたんだ。ハルくん、クラスに好きな人いたって。」
―――私は同じクラスになれることなんか、どう頑張っても出来ないけど。
「え?その人って?」
菜奈に聞かれ、名前を言おうとした時、
その人が目の前を歩いてることに気づいたー―ー。
「かすみ先輩?」
菜奈が声をかける。
「あ、菜奈ちゃん」
振り返ってふんわり笑う、この人が…。
ハルくん、好きなんでしょ?
「かすみ先輩、高校どうですか?」
同じ部活だった菜奈とかすみ先輩は、
仲良く話していた。
「確かその制服って、西高ですよね?」
「菜奈ちゃんも来年、待ってるよー!」
「いやぁ、私の頭じゃ、西高はちょっと…」
「大丈夫!!大丈夫!!スポーツ推薦だって、行けるから、私みたいに」
「でも、私。。もうテニスは……」
「え、奈菜ちゃん部活やめたの?」
「はい、ちょっと……」
「あのっ」
気まずそうにする菜奈をかばおうと、
思わずかすみ先輩に声をかける。
「あぁ、ごめんね、茗子ちゃんだよね?」
「はい…」
どうして名前を…?
「知ってるよー、春の幼なじみでしょ?有名だったもんね、かわいい幼なじみがいるって」
ハルくんのことを呼び捨てで呼ばないで…。
「菜奈ちゃんと仲良しなんだね。私、今年も春と同じクラスだったのよ。なんかもう、腐れ縁ね。」
「………」
何も言えず、
先輩と菜奈と別れて帰り道を一人歩く。
家の近くで、
春くんとばったり会った。
「茗子ちゃん、今帰り?」
いつものあったかい笑顔。
泣きそうになるんだってば、
ハルくんの顔見るとー―ー。
「ここ最近ちゃんと話したことなかったけどさ、茗子ちゃん、俺のこと避けてるよね?なんで?」
「っえ!!?」
「俺、なんかしたかなって…」
「ううん、違うよ、そんなんじゃないよ」
「変な噂とかもあったから、迷惑かけてたしさ」
「変な噂?」
「ほら、俺の彼女。。みたいなさ」
「へっ」
驚き過ぎて変な声が出た。
「本当ごめんな、彼氏作れなかったの俺のせいだよな…茗子ちゃんこんなかわいいのにさ」
ハルくん、それはひどいよ………。
なんでハルくんが「彼氏」の話するの?
「朝とか帰りに一緒に帰ったりしてたからだよな~って。俺は否定してたんだけど、周りの奴らが勝手にさ…」
「分かってるよ」
私の口が勝手に動き出した。
もうこれ以上聞きたくなかった。
「ハルくんも、彼女出来なくて大変だったよね?ごめんね、なんか…」
「茗子ちゃん?」
「なんか、ごめん……。」
泣くな。
ここで泣いたら…絶対バレる。
声が震えないように、ちょっと間を置いてから、
「高校では、彼女出来ると良いね」
笑顔で言った。
「ありがとう…」
ハルくんも笑顔でこたえた。
「でも、茗子ちゃんが彼氏連れてたら、俺ショックだな…なんか妹とられたみたいで。」
頭をポンと撫でて、ハルくんが言った。
分かってるよ…ハルくんにとっては妹だって。
ずっと変わらないって。
「彼氏出来たら紹介するよ」
ふざけて言った。
彼氏なんて、出来るわけないのに―――。