甚と茗子をつなぐ人 ~菜奈目線~
朝のホームルームが始まる前の時間、
二組の教室が見える廊下で、
私と甚は会っていた。
「仲西くん、あぁやって端から見れば、やっぱりイケメンなのにねぇ」
二組の教室のど真ん中に、クラスの女子に囲まれている仲西くんをしみじみ言う。
「…まぁ確かに、ポスト春先輩とか騒がれてたのに、茗子にアピりすぎてモテなくなって…今や残念なイケメンだけどな」
「でも、茗子にキスしたのは自分が無理やりしただけだって、周りに説明したんでしょ?そのおかげでうちのクラス、茗子のこと、悪く言わなくったし」
「茗子のためにかばったのがまたウケて、あぁなったわけか。」
女子に囲まれてるのが面白くないのか、不機嫌そうに甚が言う。
「仲西くん、良いと思ったんだけどな…」
明るく振る舞う仲西くんを、
私と甚は同情の眼差しで見ていた。
―――やっぱり、茗子の中には、春先輩しかいないのか…。
以前に茗子が言ったことが、
どうしても気になっていた。
一歳の年の差ー―――。
変えられない、壁、だよな…。
私と甚は中学二年生の時、
茗子という共通の友達同士で話すようになった。
茗子は入学してから、
かわいい子がいると噂になり、
学年でも目立っていた。
さらに、あの有名人の春先輩と幼馴染み。
クラスが違う私でも、いや、学校で彼女の存在を知らない人はいなかったと思う。
春先輩と並んで歩く姿は美男美女そのもので、
誰も近寄れなかった。
そんなこともあり、
茗子はあまり喜怒哀楽をオモテに出さない子だと思っていたが、
話してみると、
ただ、人見知りが激しいことを知る。
さらに他の友達に、
一年の時の「バレンタイン賭け事件」というのを機に、
すっかり男子と距離を置くようになったと聞いた。
「バレンタイン賭け事件」という話は、
結局今も茗子からなにも聞いていない。
私も、触れて欲しくないから話してこないのだろうと敢えて聞かなかった。
甚はそんな男子を寄せ付けない茗子と唯一普通に話していて、
彼は“特別”なのだと、思った。
時間が経つと、
茗子も私の前で普通に話すようになったし、
私も甚と自然と普通に話す仲になっていた。
茗子は毎朝のように、春先輩と登校していた。
春先輩の隣で幸せそうに笑うのを、何度も見かけた。
生徒会にも入った。
茗子が珍しく立候補したのだ。
春先輩がいるからだと思った。
茗子が言わなくても、
“春先輩”が好きなんだなと誰もが気付いたと思う。
それが元で、「彼女なのではないか」と噂は絶えなかった。
甚は、大丈夫なのだろうか…。
その時、不意に頭の中に甚が浮かんだ。
茗子は甚を“特別”にしていたから、
甚が茗子をどう思っているのか、気になった。
気になったけど、聞けなかった。
もし、茗子を好きだったら…それを面と向かって言われたときを想像すると怖くて聞けなかった。
結局その疑問には触れられないまま、三年になり、
クラスも別々になり、
もう、仲良く出来ないのかな…と思うと胸がギュッと苦しくなった。
でも、“仲西くん”という存在が私と甚にもう一度接点を持たせてくれた。
茗子も春先輩が卒業して、元気がなかったし、
“仲西くん”と上手くいけば、四人で仲良くずっといれると思ったんだけど………。
春先輩がかすみ先輩と別れていた、
と茗子から聞かされたとき、すぐに分かってしまった。
―――茗子は、今も春先輩のことが好きなんだと。
一瞬仲西くんに惹かれていたと思ったんだけど、
春先輩がフリーになったと聞いた途端、
まるで全てがリセットされたかのようだった。
年の差は、一生変わらないのに……。
それでも、やっぱり諦められないんだってことね…。
先日フラれても友達でいたいと茗子に言われ、
しばらく落ち込んだ仲西くんも、
“友達”として、仲良くすると決意したらしい。
ー―――本当、いいやつ。
茗子が“友達”でいたいって思うの、分かるよ…。
よくわからないけど、そんな仲西くんを見ながら、
「頑張れ…」と呟いて私は自分のクラスへ戻る。
甚が「なんだそれ…」と笑って教室に戻っていった。