サクの気持ち
「彼氏でも、できたのかと思った。」
切なそうに笑ったハルくんが頭から離れない。
「おいっ」
軽く頭を叩かれて、顔を上げると斎藤くんだった。
「遅れる、委員会」
叩かれた頭を大袈裟に手でさする。
「痛い…」
「悪かったな、さっきから呼んでたんだけど無反応だったからさ」
「ごめん…」腹が立ったけど私が悪いようなので一応謝る。
委員会も終わり、クラスに戻る。
いよいよ、準備に本格的にとりかかる。
「配役は、これで決定。台本はとりあえず相田が用意するから、出来たところから練習開始ってことで
。えーっと裏方の皆はちょっとこっち集まって!!」
テキパキと指示を出す斎藤くん。
私はなぜか英訳担当。
菜奈はシンデレラの継母役になった。
「じゃあ私は今日先帰るね、台本頑張って!!」
「うん、また明日…」
「斎藤くん、私、今日もう帰って良いかな?」
「え、なんで?」
時間はあっという間に18時を過ぎていた。
――サク…また待たせてるかも。
「あとは、家でやりたいんだよね…」
今日できた分を人数分印刷して渡しながら言う。
「そっか、お疲れ…」
「斎藤くーん、ちょっと…」
裏方の担当仲間の女子に呼ばれて、
斎藤くんはまた忙しそうに駆け回っていた。
正門には、サクの姿があった。
「お疲れさま」
私に気づくと、いじっていた携帯電話から顔をあげて、笑顔で言う。
「また、待たせちゃったね、ごめんっ」
走ったせいで息があがる。
昨日のサクと結衣さんのこと、触れない方がいいよね?
『なんなの、あんた。消えてよ。あんたさえ居なくなれば…』
結衣さんに言われた言葉を思い出す。
『咲ちゃんがかわいそう!もう関わらないであげてよ』
とりあえず、
結衣さんに言われた言葉のとおりにしようと、私は切り出した。
「サク…私、明日から友達と帰るから大丈夫だよ!」
「え?」
驚いた様子のサクに、私は笑顔で言う。
「大変だろうから、サク。部活のあとこっちまでわざわざ―――」
「そんなことっ」
畳み掛けるように言う。
「ううん、私、待たせてると思うと、文化祭の準備に専念できないし」
すると、サクは押し黙った。
「本当、もう平気だよ、ほらアザも消えたし」
笑って腕を見せると、その腕をサクが掴んだ。
そして、アザのあったところに――――
口づけをしてきた!!
心臓がいきなりのことに、ドキンと鳴る。
思わずバッと、腕を振り払うと、
私より驚いた顔をしたサクが、私を見つめた。
――――え、今のは一体…?
「ごめん、忘れて…」
サクはそれだけ言うと、また歩き出す。
パニックになりながらも、
サクの横顔をうかがうと、真っ赤になっていた。
―――心臓の音が騒がしくなる。
もしかして……サク……私のことを?
結衣さんのことば、
ハルくんのことば、
それぞれが合わさって…
それが二人の言わんとしていた事なのだと思った。
――――嘘、でしょ?