理解不能な憶測
「茗子ちゃん、ちょっと良いかな?」
ハルくんが、私に言うと、家の前の公園へと向かう。
先を歩くハルくんの背中を見ながら、私は後についていく。
さっきの女の子に言われたことばが頭の中をぐるぐるしている。
「サクが特に荒れだしたの、花火大会の夜からなんだ」
ハルくんが静かに話し出す。
「俺は、ずっと他に好きな子が居たのを知ってたから…。」
―――サクちゃん、ずっと好きな子がいたんだ。
近くにいたのに、
全く気付かずにちょっと胸が痛んだ。
でも、確かに…私は、サクちゃんのこと、あまり知らないのかもしれない。
クラスでのサクちゃんも、
私立中学でのサクちゃんも。
幼い頃から一緒だったから、
ただ知っていた気になっていただけで。
「だから、茗子ちゃんに聞きたかったんだけど。」
「?」
話の展開に全く思考が追い付かない。
ハルくん、何を言ってるの?
「花火大会の日、何かあったの?」
「え…」
突然の質問に、
なぜ私が関係しているのか、
意味が分からなかったし、
同時に、
航くんとキスした時のことを思い出して、赤面する。
やっぱり…とでも言いたそうに、ハルくんが私を見ている。
「部屋から見えたんだ、茗子ちゃんが走って帰ってくるところ」
「あ…」
見られてたの!?
「花火大会まだ始まったばかりだったよね?それに、泣いてるように見えた…」
ハルくんがそっと私の目元を指で触れる。
「俺には言えない話?」
「………」
「そっか。まぁ、そうだよな。」
私が黙って下を向くと、ハルくんが察したように言う。
「でも、あいつが荒れ始めたのと、茗子ちゃんが泣きながら帰ってきたのが、ただの偶然じゃない気がして。俺は、その場に居なかったから、ただの推測だけど。」
「……?」
偶然じゃない?
さっきからハルくんの言ってることがよく分からない。
「彼氏でも、できたのかと思った。」
切なそうに笑って、ハルくんが言った。
さっきまでぐるぐるしてた思考が、一気にふっとんで…私の心臓が高鳴る。