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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
25/283

板挟み、のち、修羅場

翌日、

朝のホームルームの時間に早速文化祭の演目を決めることとなった。

「じゃあ、多数決の結果、うちのクラスは、“シンデレラ”に決定しまーす」

斎藤くんが言うと、クラスから拍手がおこる。


「配役は、明日決めよう!明日までにそれぞれ、考えておいてください、以上」




「あれ?茗子、ここ、どしたの?」

休み時間、私の腕を指さして菜奈が言う。

昨日怪しいおじさんに捕まれたところに、

少しだけ赤紫に痕が残っていた。


「昨日…ちょっと…」

私が言葉を濁すと、

「まさか…イジメ?」

深刻そうに声を潜めて、菜奈が言う。


「違うよ、全然。」

「本当に?昨日私が委員会待たずに帰ったから、とか、違うよね?」

「本当に違うの…」

このままだと、

私がクラスの女子にイジメられて、

それを隠してるんだと勘違いされそうだと思い、

昨日のことを話すことにした。


「実は昨日、帰りに変な男の人に話しかけられて…腕捕まれたりして…」

「えっ!」

菜奈が驚きを隠せず、大声で声をあげる。


「だ、大丈夫だったの?それで…」

菜奈が周りを見回してから小声で尋ねる。


「ちょうど、サクちゃん…、サクが助けてくれて」

「サクって…春先輩の弟の?」

「そう。」

そっか…と私のことを想って、つらそうに菜奈が言う。


「今日からまた3人で帰ろっか、文化祭の準備もあるし、帰り遅くなるでしょ?」

菜奈が気遣ってくれる。

でも、

それは甚との時間を邪魔しちゃうだろうし、

気持ちだけ嬉しく受けとると、

心配させないように出来るだけ明るく言う。

「あ、大丈夫。それで、お母さんがサクに私のことを送るように無理やり頼んじゃって。今日から来てくれるみたいなんだ…」


「そうなの…」

菜奈が複雑そうな顔をして、呟いた。




「一組は“シンデレラ”、二組は“かぐや姫”ですね、あと決まっていない三組と四組は、来週までに提出してください。今日は以上です。」


文化祭実行委員の集まりも終わり、

時計を見ると17時だった。


―――どうしよう、まだ時間あるな。



私は学校の図書館へ行くことにした。


「茗子ちゃん」

図書館で明日の英語の予習をしていると、

後ろから、(こう)くんに声をかけられる。

「あれ?航くん。さっきはお疲れさま、どうかした?」

ちょっと来て、と図書館から出て、

すぐ向かいの中庭に来ると、

航くんが言った。

「その腕…どうしたの?」

隠したいのに、

夏服だから、どうしても見えてしまう。

「何でもないよ、大丈夫…」

腕を手で隠す。

「いやいや、昨日までなかったじゃん。俺と別れた後、あいつになんかされたの?」

「あいつ?」

まさか…航くん、あの怪しいおじさんと知り合い?

サッと青ざめた。




「弟くんだよ、春先輩の…」

「え?」

「帰り、あの交差点で、後ろから歩いてきてるのに気付いたんだ…だから、俺帰り道一人じゃないし大丈夫かなって―――」

「なんだ…」

パニックになりかけた分、ホッとして笑ってしまう。


「サクに何かされたわけじゃなくて、助けてもらったんだ。昨日ちょっと変な人に絡まれて。」

「えっ、そんな…!!ごめん、やっぱり家まで送るべきだった!」

「航くんが謝ることはないよ、断ったのは私だし」

――――本当のこと、言わなきゃ良かった。

航くんが責任を感じて沈んでいるのが分かる。


「今日はちゃんと家まで送るよ、帰ろう」

「いや、あの…」

航くんが気遣ってくれているのが分かるから、

断るとまた傷つけてしまう気がして、言いづらい。


その時、図書館から出てきた二年の女子達が騒いで走って行く。

「マジで?」

「うん、かなりのイケメンだったよ」

「まだいるかな?私、話しかけちゃおっかな~」


―――あ。

女子達の向かう先には、

正門に寄りかかって待っている咲の姿があった。



あわてて中庭にある時計を見ると、18時。


――早い。


「あいつ…なんでうちの中学に…」

航くんも気付いて、不機嫌そうに呟いた。


「心配したうちの親が、無理やり頼んじゃって…」

言い訳するように、私は早口で説明する。


「そっか、じゃあ俺が送る必要はないんだね…」

それだけ言うと、航くんは図書館へと戻っていった。


「航くん……」

なんだか悪いことをしてしまった気がして、

それ以上何も言えなかった。






「ごめん、待たせて」

「いや、今日はたまたま早く終わったから」

―――話しかけてる女子たちを前に、

出ていく勇気がなくて、

サクに話しかけていた女子たちが居なくなったのを確認してから、

正門へ行くと、18時半だった。


「……昨日は、ありがとね」

歩きながら、お礼を言う。

「おぉ。」

サクが照れたように言った。

「女の子なんだから、気をつけろよ」

「うん…」

弟みたいなサクが、

お兄ちゃんみたいなことを言うのがなんだかおかしくってちょっと笑ってしまった。



「あ、おかえり」

家の前に着くと、ハルくんがちょうど家から出てきた。


「ただいま…」

久しぶりで、途端に頬が熱くなる。


「サク、電話ぐらいとれよ!さっきから連絡してたのに」

いつになくハルくんが余裕なさそうにサクに話しかける。

「なんだよ」

ハルくんを見るなり、途端に不機嫌そうになるサク。

「結衣ちゃん、だっけ?お前の部屋で待ってる」

「は?何勝手に入れてんだよ!!」

「彼女だろ?」

二人の言い合いに、

何となく家に帰るタイミングを失った私は黙って話を聞いていた。


「違うし、あっちが勝手に勘違いしてるだけで…」

「とにかく、早く行ってやれよ。」

「………」

ハルくんのことばに、

サクは黙って家の中に入っていった。


残された私とハルくんが、

何となく顔を見合わせる。



「咲のやつ、昔はかわいかったのにな…」

ハルくんが懐かしそうに言う。


「そうだね…」

「背も俺より伸びてるし、生意気だし。最近は何考えてるか分からないし……」

「私より、低かったのにね」

私が言うと、ハルくんは笑って言った。

「本当、あいつが変わらないのは茗子ちゃんの前だけだろうね」


「え?」

意味が分からなくて、聞き返した時、

ドアが開いて女の子が目に涙をためて、出てきた。


―――あの子は、こないだの。


「なんなの、あんた。消えてよ。あんたさえ居なくなれば…」

私と目が合うと、

彼女はそう言って私を突き飛ばした。


突然のことに、

私は体勢を崩して倒れそうになる。


「危ないっ」

咄嗟にハルくんが背中に手を回して支えてくれた。


「咲ちゃんがかわいそう!もう関わらないであげてよ」

彼女は叫ぶように言うと、帰っていった。


私は、なぜ彼女が敵意を向けてきたのか理解できずに、立ち尽くす。


―――かわいそう?サクちゃんが?


「茗子ちゃん…大丈夫?」

ハルくんが心配そうに私に声をかける。


「私、サクちゃんに、何かしたかな?」

ハルくんに言ったのか、自分自身に言ったのか、

言葉だけがむなしく響いた。



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