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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
24/283

ピンチはチャンス?

「あ、解けた!!」

私の説明を一通り聞いてくれ、練習問題に取りかかっていた(こう)くんが、嬉しそうに声をあげる。

「良かった…あんな説明で分かってもらえて」

隣で宿題をしていた私は航くんの言葉にホッとする。

「じゃあそろそろ帰ろっか…」

航くんが、鞄に荷物を詰め込む。


「うん」

私も帰り支度をして席を立つ。





「文化祭、何が良いかなー」

帰り道、航くんが言う。

「去年は、確か“白雪姫”が校長賞だったよね」

「うん。」

ーーーハルくんのクラスの。


途端に、ハルくんの王子様姿を思い出す。

ーーー本当にかっこよかったな…ハルくん。



「春先輩、かっこよかったよな。」

「えっ」

私の心の声が漏れてたのか?

びっくりして赤面する。


「顔に出過ぎ…」

苦笑いして航くんが言う。

思わず頬に手を当てる。



お互いに逆方向へ向かう交差点に差し掛かって立ち止まる。

「ここで、いいよ。航くん遠回りになっちゃうし」

「そう?でも暗くなってきたし、送るよ?」

「ううん、大丈夫」

笑顔で答えると、航くんが何か言いかけて、

「ーーー分かった、じゃまた明日」

と手を振ると歩いていく。



私は一人、帰り道を歩き出す。

しばらく歩いていると、

前からこの辺りでは見かけたことのない、

知らないおじさんがこちらに向かって歩いてくることに気づく。


一人だったこともあって、心細くなり、

意識しないように小走りにすれ違おうとすると、

突然、話し掛けられた。


「あのぉ、ちょっと教えてほしいんだけど。近くにある○×商店って、知ってます?」


私は驚いて、怖くて、声が出なかった。

黙って首を横に振る。


「ちょっと、途中まで、案内してもらえるかな?」

ーーー知らないってばっ。

怖い……怖い……。

私が硬直していると、怪しいおじさんは、

抵抗しないと思ったのか、

腕をつかんできた。


ーーやだ。やめて!


泣きそうになっていると、

「何なのあんた…」

つかまれていた腕が離されて、

私の前に男の子がかばうようにして立つ。


ーーーサク。


怪しいおじさんは、

舌打ちして、逃げるように行ってしまった。



途端にその場にへたりこむ。

震えが止まらず、身動きがとれない。

ーーー怖かった、

私サクが助けてくれなかったら…。

サクが通りかからなかったら…。


考えるだけでゾッとする。



「歩けるか?」

サクが聞いてくる。

優しい声で。


しばらくして、

落ち着きを取り戻した私は、サクと一緒に歩き出す。


お互いの家の前に着いて、

私が玄関を開けようとした手を一旦止めてから、

振り返り、サクに言う。

「サク……こっち私の家だよ?」

「分かってるけど?」

「え、じゃあ、なんで入ってくるの?」

「さっきのこと、おばさんに話しとかなきゃ、だろ」

ぶっきらぼうに答えるサク。

「え…」


驚いている私をさしおいて、

サクがうちの玄関のドアを開ける。

「おかえり、茗子~。って、あら?咲ちゃん!どうしたの?」

玄関が開く音でお母さんが出てくると、

サクがさっきのことを告げた。


「え…そんなことが…茗子!大丈夫だったの!?」

お母さんが心配そうに私の頬を手で覆う。


「サクが助けてくれたから…」

無意識に捕まれた腕を後ろに隠す。


「危ないわね…でも私も仕事があるから毎日迎えに行ったりは出来ないし…」

「大丈夫だよ、もう出くわさないって」

平然を装ったつもりだったのに、

ちょっと声が震えた。


「…俺、送るよ」

「え?」

さっきまで黙って横に立っていたサクが口を開いた。

意外なことを言うので、私は驚いてサクを見る。


「部活終わるの18時くらいで、そっから茗子の中学まで行くと歩いて20分。待てない?」


「え、いや、ちょうどこっちも文化祭の準備あるからそのくらいに帰るんだけど…でも…」

「良かったわぁ、咲ちゃん!茗子のこと、お願いしてもいいかしら?」


お母さんに私の声は書き消され、

決定してしまった。


一旦サクと玄関の外に出る。

「サクちゃん、良かったの?」

私が尋ねると、サクが怒ったように言い直す。

「サク!」

「あ、ごめん、つい慣れなくて…」

また無意識に“ちゃん”付けしてしていたことを謝る。


「おばさんに、あぁ言われたら、そういうしかないじゃん。」

「……だよね、ごめん。無理しなくて良いよ?サクの中学からうちの中学じゃ、家とは反対方向だし…」

「茗子に何かあってからじゃ、困るから。」

「え?」

サクの発言にびっくりしていると、

「明日、迎えに行くまで勝手に帰るなよ!!」

それだけ言って、となりの家の中に入っていった。




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