罠~咲目線~
「なんで一年は基礎練ばっかなんだよ…」
俺はイライラを吐き出すように言う。
二年と三年は、須賀高と練習試合だってのに…。
「確かになぁ」
同じクラスでもある武田 護が言う。
「でも、あの須賀高相手じゃ、俺達が出れるわけないだろ」
将太が言う。
「相手はインターハイ準優勝校だぞ?」
史也も、言う。
――――お前らスポーツ推薦だろ…なんでそんな弱気なんだよ…。
「でも、基礎練習って言ってもこの外周って…」
護が口を開いたとき、
「おい、そこ!!しゃべってんな!あと10周追加だ」
顧問に怒鳴られる…。
―――くっそ…。
俺は一人走るスピードをあげる。
昨日の夜のことがなかなか頭から離れない。
昨日の夜、
マネージャーの粟野に『茗子が部屋で待ってる』と言われ、
部屋に向かった。
茗子が部屋に呼び出すなんて…ドギドキしながら向かう。
ノックしても返事がない。
「茗子?」
声をかけるとドアが開いた。
ドアを開けて入ると、ギュッと後ろから抱き締められる。
――――茗子?
「サクちゃん…」
俺を呼ぶ声…でも…。
違和感を感じてガバッと後ろを振り返ると、
そこに居たのは粟野だった。
「なんで、粟野…」
俺が驚いていると、
「私が頼まれたんです、茗子先輩に」
粟野が言う。
「澤野くんを、ここに引き留めておいてくれって」
「は?」
――――茗子がそんなこと言うわけねーだろ。
「どけよ」
ドアの前に立ちはだかる粟野を乱暴にどけると、
「キャ…」
よろけて床に膝をつく。
――――気にも留めずに茗子を探しに部屋を出る。
「ちょっと待って澤野くん…」
粟野が後を追いかけてくる。
「茗子先輩、今頃澤野先輩と…」
「ついて来んなよ…」
―――どこだよ、茗子…。
こんな時間にどこ行ってんだよ…。
焦りと苛立ちで、落ち着かない…。
――――春と会ってるなんて、嘘だ。
嘘に決まってるのに…、くそ…。
裏庭に居る気がして急いで向かう。
「茗子、居るのか?」
――――でも…見つからなかった…。
「どこ行ったんだよ…」
俺の心の声が漏れる…。
ホールに戻る途中、何度も茗子に電話した…でも茗子は出なかった。
そして寝場所に戻ると、春の姿はなかった。
――――嘘に決まってる…。
「春は?」
寛人に聞くと、寛人が周りを見渡して言う。
「あ…あれ?春そういやさっきから見てないな…トイレじゃね?」
――――そして今朝、
茗子にどこにいたのか聞いたとき、茗子もトイレと言った…。
偶然だろ…、そんなことイチイチ気にしてどうする?
「あ、おいっ」
「咲っ、お前もう10周走り終わってるぞ!おいっ」
暫くして、周りに体を張って止められるまで、
俺は気付かずに外周を続けていた。