彼と彼女の存在~甚目線~
「甚どういうつもりだよ」
部室で帰ろうと着替えていると航が聞く。
昼休みに茗子たちと話していた、夏休みに遊ぶメンツの話だろう。
「翔太郎は、良いのかよ?菜奈の彼氏は今あいつだろ」
航がチラッと同じ部室で着替えている翔太郎を見てから、
こそっと、声を潜める。
菜奈は、高校に入った去年の夏休みの最終日、
『同じクラスの長富翔太郎と付き合う』と言って、泣きながら何度も謝った。
同じクラスでもなかった俺は、
菜奈を同じサッカー部の翔太郎にとられてしまったのだ。
「良いんじゃね?別に、元彼と二人ってわけじゃねーし」
「なぁもしかして、お前まだ菜奈のこと…」
「つうか、お前こそ、どうなんだよ。杏奈と付き合いだして、もう3ヶ月?4ヶ月?経つだろ?―――ヤることヤッたんだよな?」
これ以上突っ込まれたくなくて、
俺が話題を変えると、航が赤くなる。
「うるせーな…」
「なんで?良いと思うよ、俺は。あのまま茗子のこと追いかけたって、なんのメリットもないしな」
童貞捨てれて良かったじゃん、と言うとなぜか思いきりみぞおちをど突かれた。
「―――茗子ちゃん…なんで澤野咲と付き合いだしたんだろうな…」
暫くして、航が真剣に考えながら言う。
「春先輩にフラれたんだろ…そして押しの強い弟に流された…ってとこだろ」
みぞおちをさすりながら、俺が推測する。
「俺だって相当アピってたけどな…」
航が、咲と自分との違いが分からないと悩んでいる。
「別れてないのにアピってただろ、お前は」
俺が呆れて言うと、
「押されてもなびかないのが茗子ちゃんなのにな…」
航が、俺のことばが聞こえていなかったのかまだ考え込んでいた。
「まぁ、お前にはもう彼女が居るんだから、いいじゃん」
俺がため息をつきながら言うと、
「………杏奈とは、別れるよ」
航が深刻そうに言う。
「は?お前、何言ってんだよ」
「だってさ…杏奈のことやっぱり彼女として見れそうにないんだ…」
苦しそうに顔を歪めて、航が告白した。
「やっぱり目で追ってるんだ、まだ………茗子ちゃんのこと。」
「航………」
お前は本当に、茗子を諦めない奴だな…。
茗子は常に、あの幼馴染みの澤野兄弟が隣にいて、
普段なら茗子に近づくことすら、なかなかできないのに。
もし、澤野兄弟が幼馴染みでなかったら………、
もし、同じクラスにお前がいて、側にいたら――――、
茗子は間違いなくお前を好きになったんだろうな…。
「頑張ろうな、お互い」
――好きな女の子には、今“彼氏”がいる。
でも…もう一度心を通わせたいんだ…、菜奈。