夏休みの前に…
「あの人でしょ、二年の淫乱女」
「元カレと今カレが兄弟なんてあり得ないよね、フツー」
中間試験が終わり、夏の大会が近づく頃、
こんな声が囁かれるようになった。
ハルくんとサクちゃんは、西高で知らない人がいないほどカッコいいと有名だし、人気がある。
そんな二人と幼馴染みで、澤野兄弟を取っ替え引っ替えしている悪女。
それが私―――。
サクちゃんが一年生の女子を黙らせてから、
一時的に嫌がらせや、悪口は無くなったのに、
最近また、一部の女子に悪口を言われている。
直接ではないけど、私の心に傷をつけるには充分な効果だった。
「うわ、ひがまれてるねー」
一緒に廊下を歩いていた愛梨が言う。
「茗子、あんなの気にすることないんだからね」
「ありがと…」
「あれ?そういえば地区大会優勝したんだって?」
「うん、そうなの!今年もインターハイ出場が決まって」
私が明るく言うと、
「良かったねー!…そういえば、粟野凛は大丈夫?」
愛梨が心配して聞いてくる。
「それが…まだ上手くいってなくて…」
苦笑いで答える。
「怖いな…何企んでるんだか」
愛梨が言う。
「でも、マネージャーとしては何も問題なくやってくれてるし、いつか仲良くできたら良いんだけど…ね」
「粟野がターゲットを変えない限り、それは無理じゃない?」
バッサリ愛梨が言う。
「今年は、去年ウィンターカップで対戦してうちが負けた須賀高校から、合宿に誘われてるんだが…」
「え、そうなんですか?」
職員室に呼び出された私と寛人さんが、顧問の先生から話を聞く。
「すごい…あのインターハイ準優勝のチームが…なんでうちに?」
「さぁなぁ、まぁせっかくのお誘いだし、遠出だけど参加できるやつだけでも行くか?」
先生が言う。
「そうすっね…」
寛人さんが頷く。
「―――相田はどうだ?行けそうか?」
「はい!」
少しでも、役に立ちたいし…。
「じゃあ須賀高校さんには、先生から連絡しておく。」
「お願いします」
寛人さんと私は、頭を下げる。
「…ねぇ茗子ちゃん?春とはどうなってんの?」
職員室を出ると、寛人さんが聞きにくそうに尋ねる。
「どうって…?」
「仲直り、したんだろ?」
「…はい」
「だよな…?春もそう言ってたし。じゃあなんで咲と付き合うことになったの?」
「え…」
「俺、ずっと気になってたんだよな…。仲直りしたなら、より戻すと思うだろ、普通」
「私も、そう思ってましたよ…?」
―――寛人さんの言葉に、つい同調してしまった。
「えっ?茗子ちゃんがフッたのかと思ってたんだけど…違うの?」
「………違いますよ…」
―――私は、フラれたんです!
心の中で叫ぶ。
「じゃあなんで春…」
ボソッと寛人さんが呟く。
「何ですか?」
「あぁ、いや、何でもない!!」
寛人さんが慌てて取り繕うように笑う。
「合宿、頼むね」
「―――はい」
「もうすぐ夏休みだなー。」
教室に戻ると、航くんが愛梨と、隣のクラスから来ていた甚と菜奈、彩と楽しそうに盛り上がっていた。
「今年も花火大会行こうぜ、皆で」
「いやいや今年航は、杏奈ちゃんと行くんでしょ?」
彩がツッコんで言う。
「あ…そうか」
航くんが思い出したように言うと、しゅんとしてしまう。
「あ、茗子、おかえり」
菜奈が私に気付いて笑顔で言う。
「夏休み、皆でどこか遊びに行かない?」
彩が言う。
「インターハイのあとなら…」
私が言うと、
「じゃあこのメンバーで決まりな!」
甚が言う。
――ーわぁ…楽しそう!
夏休み皆で遊ぶ日が、待ち遠しく感じた。