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いっこの差  作者: 夢呂
【第三章】
192/283

誕生日の夜に

「おはよ、茗子。誕生日おめでと」

「ハルくんも、おめでとう」

朝、家の前でサクちゃんを待っていると、

先にハルくんが出てきた。


「じゃあ俺、先行くわ」

ハルくんが、一足先に学校に向かおうとする。


「あ、ハルくん…」

私が引き留めながら、鞄の中からラッピングされた袋を出す。

「これ…」


「え、誕生日プレゼント?」

ハルくんが驚いて言うと、袋を開けてみる。



袋から取り出して、ハルくんが驚く。

「え…マフラー?」

「―――ごめん、あり得ないよね、この季節にそれ…」

私は苦笑いしながら、ハルくんに言う。


「実はそれ、クリスマスプレゼントに選んだものだったんだけど…結局渡せなくて」

「茗子…」

「今年はハルくん受験だし、風邪引かないように…。良かったら使って?」

――――ずっと渡せなくて、部屋に置いてあった、ハルくんへのプレゼント。



「ありがとう。大切に使うよ…冬に」

からかうように、ハルくんが笑って言うと、

「じゃああとで」

先に行ってしまった。


「悪ぃ、茗子!寝坊したっ…」

ハルくんが行ってしまうのを見送っていると、

サクちゃんが慌てて玄関を飛び出してきた。


「おはよう、サクちゃん」

「誕生日おめでとう、茗子」

「ありがとう…」








部活から帰って、

家に入ると、お母さんが手料理を置いていってくれていた。

メモが置いてあり、『17才の誕生日おめでとう』と書かれている。



玄関が開く音がして、私が出迎えると、

そこにはサクちゃんではなく、ハルくんが立っていた。


「どうしたの?」

「誕生日プレゼント、俺も渡したくて」

可愛くラッピングされた袋を渡される。


「…ありがとう」

私がお礼を言うと、ハルくんが微笑んだ。


―――あ…。


ハルくんはすぐに玄関のドアを開けて出ていこうとする。


私は、引き留める理由もなく、

ただ、ハルくんが行ってしまった後もしばらく玄関のドアを見つめていた。


ふと、手に渡されたプレゼントを開けてみると、

ウサギのぬいぐるみが入っていた。


――――これ…。


サクちゃんの誕生日プレゼントを一緒に買いに行ったとき、

私が手にとっていたウサギのぬいぐるみだった。


――――ハルくん…。



私はウサギのぬいぐるみを抱きしめた。

あの時のー――

幸せなひとときが思い出されて、胸を熱くした…。


好きな人からもらった誕生日プレゼント…嬉しいはずなのに…。

今はツラいよ…。



「茗子?」

玄関に立ち尽くしていた私は、サクちゃんが家に入ってきた時、

咄嗟にウサギのぬいぐるみを後ろ手に隠した。



「あ、そろそろ来るかなって、待ってたの」

私が平常心を装いながら笑顔で言う。

「入って」


サクちゃんが不思議そうな顔をしながら先にリビングに向かう。

私はウサギのぬいぐるみを玄関の小箱の横にそっと置いてからリビングに向かった。



「うわ、すごいご馳走だな…」

サクちゃんが食卓の料理を見ながら驚いて言う。


「お母さんが、作り置きしていったの。サクちゃん良かったら一緒に食べてって?」

「お、おぉ」

サクちゃんが、なぜか照れたように返事した。




「良かった、今日一人で誕生日過ごすところだったよ」

食べ終わった食器を洗いながら私が自虐気味に言うと、

「俺に感謝しろよな」

サクちゃんがソファーに座ってテレビを観ながら偉そうに言って笑う。


「本当…感謝してるよ」

私が真剣に言うと、

サクちゃんが振り返って、私の顔を見つめた。



「私…今はサクちゃんが側にいてくれて救われてるって思うの」

食器を洗う手を止めることなく、私はポツリ、本音をこぼす。


「なんだよ、急に…」

サクちゃんが動揺したように言う。


流していた水を止めて、私はサクちゃんの顔をみる。

「こんな私でも…サクちゃんは良いの?」


――――ハルくんが好きなまま、サクちゃんに寂しさを埋めてもらってる私。

こんなにズルくて…卑怯な付き合い方してるのに…。



サクちゃんが、立ち上がって私の目の前に立つ。

「?」

――――サクちゃん?

「そういえば、こないだ優勝したのにまだ“ご褒美”貰ってなかった」


私の腕を引いて正面を向かせると、頬を優しく両手で包み込む。


「え、ちょっと待ってそれは…っ」

――――私、ダメだって言ったじゃない…。

私が慌ててサクチャンの胸に手を当てて押しやろうとする。


それでもびくともしなくて、

覚悟して目をギュッと瞑ると、一瞬唇に柔らかい感触がした。

―――チュッと音を立ててサクちゃんがすぐに唇を離す。


「俺は、今のままでも良い。―――茗子が俺の“彼女”でいてくれたら、それで」


「でも…」

それは、サクちゃんを傷付け続けることにならないの?


「こないだは、焦って困らせること言っちゃってごめん。分かってるつもりだったのに、茗子の気持ち」


『頼むから…俺のことも見てよ…』

―――公園で聞いた、サクちゃんの気持ち。



「ううん、だって私が悪いんだから…」


「茗子、そんな風に思わなくて良いんだ。お前は俺が無理やり頼んで彼女になっただけなんだから」


「……そんな」


「でも…。ちょっとずつでもいいから、俺のこと好きになって?」

サクちゃんが切ない声でそう言うと、私のことをギュッと抱き締めた。


――――サクちゃん…。


私はその時、努力しようと誓った…。


サクちゃんのこと、好きになって…ハルくんから卒業しようって。


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