誕生日イブ
「茗子、春くんと別れたって本当なの?」
夕ご飯を食べている時、思い出したようにお母さんが言う。
「今年も誕生日会、一緒にやろうと思ってたのに、春くんのお母さんから聞いてビックリしちゃったわ!」
「―――うん」
「ね、なんで別れたのよ?」
他人事のように身を乗り出して楽しそうに聞いてくる。
「いいでしょ、別に」
私が苛立ちながら言うと、
「フラれたのー?もう…せっかく春くんみたいなイケメンを息子に出来るのかと思ってたのにぃ」
「お母さん、本当もうやめて」
―――もう…考えたくないのに。
「って、ことで今年はうちで私と二人きりね。」
――――お父さんは出張のはずが、そのままアメリカに駐在することになり、単身赴任となっていた。
「いや無理しないでよ、お母さん明日仕事遅いんでしょ?」
「あら、誰か他にあんたの誕生日祝ってくれる人でも見つけたの?」
お母さんに言われ、すぐに浮かんだのは…サクちゃんだった。
「それなら、それで良いけどー」
お母さんがニヤニヤしながら言う。
「…ごちそうさま」
私は聞かれる前に逃げようと、
食べ終わった食器をキッチンへ運ぼうと、席を立つ。
「じゃあ明日の誕生日、ご馳走作って置いておくわねー」
お母さんの言葉を聞き流して、自分の部屋に向かう。
『頼むから…俺のことも見てよ…』
サクちゃんに公園でそう言われてから、数日が経った。
あれ以来、ギクシャクしながらもお互い、“公認のカップル”を続けている。
―――サクちゃんは、あんなにまっすぐに想ってくれているのに…。
私はこのまま、サクちゃんの彼女のふりを続けていて良いのかな…。
サクちゃんと、本当に付き合うべきなのかな…。
「明日の誕生日、一緒に過ごしたい」
今日の帰り、ずっと黙っていたサクちゃんが家に入る前に私に言った。
――――私、サクちゃんに甘えすぎてる…。