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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
19/283

告白の答え

「じゃあな、」「またね、茗子。」

菜奈と甚と駅で別れて、

私と仲西くんが残される。


「シャチ、残念だったね…今日風邪でみれなくて」

帰り道、私が言うと、

「シャチが風邪引くとか、あるんだな」

笑いながら仲西くんが言う。


「………」

「…今日、楽しかった?」

仲西くんが私の方を見る。

「え、楽しかったよ」

ーーなんでそんな事聞くの?


「……良かった、なんか、元気なさそうに見えたから」

「!!」

仲西くんの言葉にギクッとした。


仲西くんは、知ってるのかな…。

「仲西くんは、ハルくんとかすみ先輩が別れてたって知ってる?」

思いきって、聞いてみた。

「え?」

仲西くんから笑顔が消えた。

「私、勘違いしてて……。ハルくんからこないだ聞いて」

「なんだ、もう知っちゃったのか…」

仲西くんがうつ向いて小さく何か呟いた。

「え、なんて?」

「ーーー知ってたよ。」

真面目な顔で、仲西くんが言う。

「そっか。でも知ってたならどうして……。」

どうしてあの時、

二人が今でも付き合ってるような言い方ーーー。



「ズルいよな、ごめん」

「ズルい?」

「あぁ言って、誤解させたら、春先輩のこと、諦めるかな…とか、思って。」

ーーーそんな。


許せないという感情が沸き起こるのに、

真剣な表情に、それ以上何も言えなくなる。



「………」

何も言えずにいると、

何やら言い合う声が聞こえてきた。


ーーあ、ここ、サクの中学だ。


帰り道のフェンス越しに、

私立中学の裏庭が少しだけ見えた。


「あ、あれって…」

私の視線に気づいて、仲西くんが裏庭を見ると、

何かに気付いた。


「仲西くん?」

「あれ、春先輩の弟のーー。」

指差したのは、言い合いが聞こえる方だった。


フェンスギリギリに近づいて見ると、

木々の間から確かにサクの顔が見えた。


言い合いの相手はーーー、女の子だった。

背格好から、

何となく、あの時部屋から出てきた、

あの人だと思った。



「……何勘違いしてんの?」

冷たい、サクの声。

「私のこと、遊びじゃないって…。あの人の代わりじゃないって、言って!」


「………は?」

女の子を睨み付けたまま、サクは言う。

「それでも、良いとか言ったのはそっちだろ。

めんどくせー、もう話し掛けんな」


「なんで?どうして私じゃダメなの?ヤるだけじゃなくてさ、なんでちゃんと私を見てくれないの?」


「花火大会は、そっちが一緒に行けばもう付きまとわないって言ったからだろ。」

「そうだけど…」

「それに、そういう関係を望んだのも、そっち。」

「………」

「もう、行ってもいいですか、結衣(ゆい)先輩。」

(さく)ちゃん…」

女の子がすがろうとすると、

「その呼び方、やめろっつんてんだろ!」

苛立ちをぶつけるようにして、

泣きじゃくる女の子に振り返ることもなく、

サクは行ってしまった。



ーーー所々しか、聞き取れなかったけど、

サクがあの子を傷付けたことは理解できた。



「行こう…」

仲西くんが、私の手をとった。


すると、ちょうど裏門から出てきたサクに出くわす。


「サクちゃん…」

私と目が合うと、サクは驚いた顔をして、

すぐに顔を背ける。


なぜか、傷ついているように見えた。



「茗子ちゃん、このあと、約束してたCD渡したいからちょっと俺の家寄ってくれる?」

仲西くんが私に話し掛けてきて、

我に返る。

「え?仲西くん、約束って……?」

そんな約束、してなかったよね?

「ほら、行こう!!」

仲西くんに手を引かれたまま、

立ち尽くしてるサクの横を通りすぎる。

「………茗子」

後ろから、サクの声が聞こえた気がした。




ーーーーしばらくして、長いこと、手を繋いでいたことに気付く。


さっきのやり取りが衝撃的過ぎて、

手を繋がれてたこと、今気付いた……。



「仲西くん……」

「ん?」

「CDって、何の事?」

私の家とは反対の道を歩いていく仲西くんに、

私は問いかける。


「ごめん、なんか茗子ちゃんと弟くん、気まずいかなって。」

と、いうか…。

「ーーー手、離してもいい?」

私の言葉に、仲西くんが言う。


(こう)って呼んでくれたら」

「え…」

「名前で、呼んで欲しいなーと思って!!」

真っ赤になりながら、仲西くんが言った。

私も、慣れない呼び方に、つい照れてしまう。

「こ、航くん。手を離して?」


パッと手を離される。

「ごめん、ここまで来れば、弟くんには会わずに帰れるかな」

「ありがと」

「戻ろっか、この道から行けば、遠回りだけど茗子ちゃんの家に着くし」

「あ、うん。」

もしかして、家まで送ってくれるのかな…。

「送るよ、家まで。」

私が思ってたことが顔に出ていたのか、

航くんが言う。



ぎこちなく距離を保ちながら、

遠回りの道のりをゆっくり歩き出す。



言わなきゃ。


「航くん、あのさ…」

「ん?」

お互いに顔を見ずに話す。

「私、やっぱり、航くんとは付き合えない。」


「………そっか」

明らかに落胆した声色が隣から聞こえてくる。

ズキッと胸が痛む。


「でも、もし、良かったら…」

「?」

「私と、友達でいてくれないかな?」

ムシの良い話だと承知で言う。


「それは…もちろんだよっ」

航くんが、言う。

「ありがとう…」


分かってる、

本当は、いま航くんがどんな気持ちで言ってくれたのか。

私の為に、必死に平気なふりをしてくれてる。

私が罪悪感を感じないようにって。


ーーーズルいのは、私も、同じ。


ごめんね、航くんーーー

ありがとうーーーー。











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