仲直りしても
バスケの試合は、準々決勝までいったが、
三年生に惜しくも一点差で負けてしまった。
「あーくやしい!」
愛梨が言いながら、私と体育館を出ようとした時、
「茗子、ちょっと良い?」
ハルくんが私の前に現れた。
『茗子は、春先輩のこと、まだ好きだと思うよ?』
さっき菜奈に言われたことを思い出す。
『茗子は、春先輩の、何を見てきたの?』
「ごめん…」
ハルくんがバスケ部の部室に入ってドアを閉めると、
頭を下げた。
「俺、ちゃんと仲直りしたくて、茗子と」
――――ハルくん…。
「修学旅行の時のこと、本当にごめんな…。茗子の気持ち、一番に考えるべきなのに…」
「…うん…」
―――他の女の子にキスなんて…、ひどいよ…。
不本意だったとしても…。
「この間も、比嘉先輩とのことで嫉妬して…ひどいこと言ってごめん…今更、許してもらえると思ってないけど…」
「………」
「俺、ダメなんだよ…茗子のことになると余裕なくて…。」
苦笑いでハルくんが言う。
「―――だから、これで良かったと思う…」
「え?」
ハルくんの言葉に、私は顔を上げる。
「茗子が、咲と付き合うようになって」
「え…」
ハルくんの言葉に、耳を疑った。
「咲なら、きっと茗子のことを一番に考える。誰よりも」
「ハルくんがそんなこと、言わないで…」
――――私は…ハルくんの一番に…なりたかったのに。
「ごめん…でも俺は茗子のこと好きだよ、ずっと…」
「え…」
――――ハルくん?
「前みたいには、一緒にいることは出来ないけど…避けるのだけはやめて?」
泣きそうな顔でハルくんが優しく言う。
「茗子に嫌われるのが、一番堪えるんだ…」
―――嫌ってなんかないよ…。私、本当は…。
「…私、本当はサクちゃんと付き合ってないよ」
「――――え?」
「私が…好きなのは…今でもずっとハルくんだから」
私は…後悔しないように思い切って、告白した。
菜奈の言う通り…私はハルくんが、好きだ。
自分が傷付きたくないから、逃げていただけで―――。
「修学旅行でのことがショックで…比嘉先輩とのこと疑われて責められたのが悲しくて…逃げてた。私も、ハルくんが好きだから…嫌われたくない…。」
「茗子…」
涙が出そうになるのを必死で抑えて伝えると、
ハルくんが優しく抱き締めてくれた。
―――懐かしい…ハルくんの温もり。
私も、ハルくんを抱き締め返す。
「ありがとう、そんな風に言ってくれて」
ハルくんが腕を緩めて私の顔を見て微笑む。
「ハルくん…」
顔が近付いて、キスされる気がしてドキドキしながらハルくんを見つめた。
――――でも、キスの代わりに、ハルくんが言った…。
「でも、俺は茗子とやり直すつもりはないんだ…」
ハルくんが困ったような顔で微笑む。
「え…」
私は心が凍りついた気がした。
―――仲直り、出来たんだよね?
私の気持ち、ハルくんに届いた…よね?
「ごめんな…」
そう言うと、ハルくんが部室を出ていった。
――――どうして?……どうして?どうして?