説得~春目線~
「だから言っただろ?咲にとられる前により戻せって…」
試合が終わって、歩いていた俺に寛人が言う。
「本当にこれで良かったのかよ?」
「………」
「寛人が言うのも無理ないわね」
俺が黙っているところに、かすみの声がした。
「かすみ…」
かすみが俺と寛人の前に来て言う。
「―――次の準決勝、咲くんのクラスと当たるわね」
かすみがトーナメント表を見ながら言った。
「春…本当のこと、ちゃんと茗子ちゃんと話してよ」
「なんでかすみが気にするんだよ」
俺が笑って誤魔化そうとすると、
「私の時みたいに、なって欲しくないからだよ」
かすみがいつになく必死な顔で言う。
「ちゃんと本音で、話してよ。私はあの時…ちゃんと話せばよかったって、…後悔したんだから。」
かすみが罰の悪そうな顔で言う。
「千鶴たちに聞いたわ…修学旅行でのこと」
「そう…」
俺が素っ気なく応える。
「どうして、そんな皆に優しくするの?どうしてすぐ千鶴の気持ちとか考えちゃうの?“彼女”がどんな想いするか、分かってない!」
――――かすみが、どうしてこんなに怒るんだ…?
「ちゃんと謝って、茗子ちゃんに。そして、仲直りしてよ…」
「かすみ?」
「こんな結末じゃ、あの時の私が浮かばれないじゃない」
かすみがうつ向いて言う。
――――泣いてるのか?
「ごめん…」
「私じゃなくて、茗子ちゃんに謝って!」
俺が謝ると、かすみが涙目の顔を上げて俺に言った。
「わかった…謝るよちゃんと」
俺はかすみに微笑んで言う。
――――かすみは、本当に真っ直ぐだな。
好きだな、やっぱりそういうところ。
―――でも…もう茗子と仲直りできたとしても…付き合わないけどな…。
試合が始まり、咲達一年生と対戦する。
素人の俺達は、やっぱり咲には全く敵わなかった。
咲一人にあっさりやられてしまう。
――――元々、咲と茗子が付き合えば良いとか思ってたんだよな…そう言えば。
咲がドリブルしているボールを追いかけながら、
俺はそんなことを思っていた。
――――二人が付き合い出して、咲は夢が叶ったんだ。
俺が邪魔することはない。
それに…もし、今から茗子と付き合えたとしても、
数ヶ月したら、また、茗子を泣かせてしまうから。
茗子の側に居るべきなのは、今は俺じゃない。
――――咲だ。