叶わない夢~咲目線~
「……ダメ?」
俺が答えを聞く。
「ダメだよ…」
茗子がこちらを見ないまま、困ったように即答する。
―――そりゃそうだよな…。キスなんて、俺のこと好きでもないのに。
俺が諦めてそっと手を離すと、茗子は逃げるようにダッシュで行ってしまった。
「おい」
茗子の背中を、切ない気持ちで眺めていると、
後ろから声をかけられて振り返る。
そこには、仲西と、俺と同じクラスの笹井杏奈がくっついていた。
「なんだよ、さっきの」
仲西が苛ついた口調で言う。
「…別に、先輩には関係ないだろ」
俺は仲西を睨んで答える。
―――お前はもう、茗子のこと、諦めたんだろ?
「まぁ、もう、関係ないかもしれない…けど。」
「じゃあ口出ししないでよ、先輩」
俺がサッカー場に戻ろうと背を向けて歩き出す。
「俺はなぁ…お前の才能が羨ましいんだよ!!」
「はっ?」
仲西の言葉に、つい振り返ってしまう。
―――才能?なに言ってんだ…?
「あんな手加減して…もっと本気出せよ!!失礼だろ、相手に!」
――――こいつ、サッカーのこと言ってたのか。
俺はてっきり茗子のことかと…。
「なんだよ。なに笑ってんだよ」
仲西が怒ったように言う。
「別に?」
俺が笑いをこらえて言う。
「―――澤野、お前サッカー部入れよ」
仲西が真剣な顔で言う。
「………」
「勿体ないだろ、その才能。」
「―――まぁ助っ人なら、してもいいスけど?」
「本当ムカつく奴だな」
俺の言葉に、仲西が苦笑いで言った。
「ねぇ航先輩、バスケの試合始まるんじゃないですか?」
さっきから、仲西の腕に引っ付いてた笹井杏奈が言う。
「あ、やっべ」
仲西が体育館に向かおうと走り出す。
「ちょっと、航先輩待ってよー」
笹井杏奈も後を追いかける。
―――あれ?仲西と茗子、同じクラスだったよな…。
茗子、バスケって…あいつと一緒のチームか!?
俺もすぐに体育館に向かう。
2年A組と2年B組の試合が始まった。
茗子は、ポニーテールに髪を縛っていた。
いつもは、髪を縛っていないからかすごく新鮮で可愛かった。
「うわ、澤野くんも来たんだ」
俺が茗子を目で追っていると、
いつのまにか隣に笹井杏奈が立っていた。
「ちょっと、シカトしないでよね」
「さっきと声のトーン違いすぎ」
俺がボソッと言う。
―――典型的なぶりっこだな…。
「うっさいわ。それよりあんた、絶対別れないでよね!!」
――――キャラ違いすぎだろ…。
「お前に関係ないだろ」
―――三ヶ月限定なんだよ。三ヶ月過ぎたら…終わりなんだよ。
―――茗子が俺に全く脈なしだってこと承知で頼んだことなんだ…、別れる前提の付き合いなんだよ…。
「相田先輩がフリーになると、航先輩の気持ち、相田先輩に戻っちゃうんだから…」
笹井杏奈が、切ない顔で言う。
「なんだよ、それ」
茗子のシュートが届かず、ボールをとられそうになったところに、仲西がすばやくボールを取り、ドリブルシュートを決めた。
仲西と茗子が嬉しそうにハイタッチをする。
―――そんな様子を見ながら、笹井杏奈と俺は話を続ける。
「必死なんだよ、あたし。ここで繋ぎ止めて、航先輩のことちゃんと振り向かせたいの!今の航先輩…無理してるの分かるもん…」
「確かに」
―――無理してるのは、見れば分かる。
今、すごく嬉しそうにしているのも…。
「納得すんな!!―――こっちはね、もう4年も片想いしてんのよ」
笹井杏奈が力説する。
「へー…」
――――俺は…小学生の頃からずっとだけどな。
目の前で、下手くそなりに頑張ってる茗子を見つめながら、
小学校時代を思い出す。
―――ずっと、手に入らない存在だって、思ってた。
茗子の目の中にはいつだって、春しか映って居なかったから。
約束は三ヶ月、………あと残り二ヶ月だけど、
“俺の彼女”になってもらえる日が来るなんて、思わなかった。
このままずっと、俺の彼女だったら良いのに…。