スポーツ大会当日
「応援?」
「うん、来いよ!!」
スポーツ大会当日の朝、サクちゃんが言う。
「…分かった、私の試合の時間とかぶってなかったらね」
「茗子はバスケだろ、俺も見に行くから」
サクちゃんが楽しそうに笑う。
「茗子のマヌケなバスケ姿、あー楽しみ」
「本当性格悪いよね…」
―――私がサクちゃんを睨むと、サクちゃんが嬉しそうに笑う。
「!!」
なぜかそのキラキラした笑顔にときめいてしまった。
―――いや、今私、褒めてなかったんだけど。
「こ、これでも一応練習したんだから」
どきまぎしながら、平静を取り戻すように私は足を早めて言う。
サクちゃんがあっさり私の歩く速度に追い付いて頭をクチャッと撫でる。
「サクちゃん、髪ぐちゃってなるからやめてよ」
私が頭を手で押さえながら言う。
「あぁ、ごめんごめん」
言いながらまたやる。
「もー…」
サクちゃんがあまりに幸せそうに笑うから、
それ以上何も言えなくなった。
「茗子ちゃん、うちらの試合、まだまだみたいよ?なんと、シード権ゲット!」
くじ引きをしていた愛梨が嬉しそうに戻ってくる。
「すごい!」
私も喜んで言う。
「ね、サッカー観に行っても良い?」
愛梨が言う。
「うん、私もサクちゃんに言われてたんだ」
「うわ、ノロケ?」
「あ、違うよ!そんなんじゃないよ」
「はいはい、ゴチソウサマ」
愛梨にからかわれながら、サッカー場に向かう。
ちょうど、1年A組と2年B組の試合が始まっていた。
「う、上手すぎ…茗子の彼氏…」
愛梨は口をポカーンと開けたまま言う。
「サッカー部だっからね、中学までずっと」
―――にしても、
サクちゃん…上手すぎて一人浮いてるんだけど。
9人をごぼう抜きしたサクちゃんがゴールキーパーの前でシュートを放ち、あっさり得点を決める。
「なんか、B組が可哀想だわ…。」
愛梨が試合から目を離さずに呟く。
「そだね…」
これじゃ、サクちゃん一人が小学生を相手にしてるみたいで――――。
後半になると、
B組がボールを追うことすらしなくなった。
「一年にあそこまでされたら、やる気も失せるよね」
愛梨が同情する。
「あ…」
その時、サクちゃんからボールを奪おうと、
スライディングする姿があった。
「仁科…」
愛梨がボソッと言う。
――――え、仁科くん?
サクちゃんは、仁科くんのスライディングもヒラリとかわして、ゴールを決める。
愛梨の視線の先には、仁科くんがいた。
―――-そっか、
愛梨…サッカー観に行きたいって…仁科くんのこと…。
試合は20対1。
一年A組の圧勝だった。
「愛梨、行ってきたら?」
私が愛梨の背中を押す。
「え、なにが?」
「仁科くん、心配なんでしょ?」
あの最後に見せたスライディングで、仁科くんは足をひきずっていた。
「保健室、連れてってあげなよ」
私が言うと、
「あいつ、キモいから友達居ないしね…ちょっと付き合ってきてあげるわ…」
私に言い訳しながら、愛梨が仁科くんのもとに駆け寄る。
私は愛梨と仁科くんの姿を微笑ましく見ていた。
――――愛梨、かわいいな…。
「あ、茗子」
サクちゃんが私に気がついて、駆け寄ってくる。
「見たか?」
サクちゃんがどや顔で言う。
「見てたけど…手加減してあげなよ…みんな素人なんだから」
私が苦笑いで言うと、
「いや、手加減したし」
真顔でサクちゃんが言う。
――――手加減して、あれですか…。
私が唖然としていると、
「次、春と当たるんだ。あいつが次の試合勝ち上がってきたら、だけど」
サクちゃんが私の反応をみるように言う。
「へぇ、頑張ってね」
「茗子、俺を応援してくれんの?」
「………」
――――うん、って頷くところでしょ。
なんで頷かないの?
「茗子…?」
「あ、私試合始まるかも…体育館に戻るね」
私は話をそらすと、サクちゃんの前から立ち去ろうとした。
パシッと腕を掴まれる。
「サクちゃん、離して……」
振り返ることが出来ずに、私は言う。
「茗子、優勝したらキスしてもいい?」
サクちゃんが真剣な声が肩越しに聞こえてきた。
―――――え…。