水族館
「おはよ」
「…おはよ」
夏休みも終わりに差し掛かったある日、
朝早くに家を出ると、
偶然ハルくんも家から出てくるところだった。
「部活?」
私が顔を見ずに言うと、
「そっ、毎朝早いんだよ…眠い。」
あくびを噛み殺して、ハルくんが言う。
「茗子ちゃんは?どこか、出掛けるの?」
私の格好を見て、聞く。
「図書館…じゃないでしょ?」
「あ、うん…。友達と、水族館」
何となく、お洒落してみた自分を見透かされたみたいで恥ずかしい。
「へぇー、良いねぇ。俺も遊ぶ時間、欲しい!」
笑いながらハルくんが言う。
待ち合わせの駅へ向かう道が、
ハルくんの高校へのバス停と同じだから、
自然と並んで歩く。
「じゃ、ここで」
「ハルくん、部活頑張って、ね…」
ハルくんのバス停で、別れて、
私はまた歩き出す。
途中で菜奈と甚に会い、
駅まで向かう。
「遅いな、航のやつ。言い出しっぺが」
「いやいや、まだ待ち合わせの時間、過ぎたワケじゃないっしょ。甚怒んないの!」
「でも、早い方が良いじゃん。こっからだと電車で一時間かかるだろ…」
「いやいや、そんなかからないでしょ」
菜奈と甚が仲良く話してるのを、
隣で微笑ましく見ていた。
ーーー幸せそう。
「ごめん、皆、早いね!!」
しばらくして、仲西くんが走ってきた。
「おはよ」「航、遅いわ!」
「おはよっ、…お待たせしました」
菜奈と甚が、仲西くんがあいさつしてるのを見て、
タイミングを逃した私は、うつ向く。
ーーーうわ、おはよって言いそびれた。
息を整えてから、仲西くんが私の方を向く。
「茗子ちゃんも、おはよ。ごめんね、遅れて」
「おはよ、大丈夫…皆今来たとこだし」
「おい、電車、乗り遅れる!改札、行くぞ」
甚の言葉に、私と仲西くんが同時に歩き出す。
ーーーやばい、やっぱり気まずいよ…。
隣を歩く仲西くんを、
意識しすぎて会話もできない。
「茗子ちゃん、シャチ、好き?」
「えっ」
突然の質問に驚いて顔を見る。
「俺は、好き。なんか、かっこよくない?」
私が答える前に、仲西くんが自分から答え出す。
ーーー無理して明るくしてる?
気遣われてる…。
「私も……」
“好き”ということばすら、意識してしまい、
言えない。
「私は、イルカの方が良いかな…。イルカのショーとか、あるのかな?」
「そっか…」
私が答えると、嬉しそうに笑う。
ーーー優しい反応に、胸が苦しくなる。
ーーーーなに、してるんだろ、私は。
これで、良いのかな?
仲西くんに対して……。