二度目の密会~航目線~
「まさか、航と杏奈が付き合うとはねー」
またもかすみに呼び出され、
昼休みにサッカー部の部室へ行くと開口一番がそれだ。
「だから…それは…」
「杏奈から聞いてるわよ、西高に受かったら付き合うって約束してたんでしょ?」
――――約束っていうか、一方的に決めつけられたんだけど。
そもそも、そんな約束した覚えもない。
いつものようにあしらっていたときに、
適当に頷いてしまったのかもしれない。
「もうずいぶん広まってるしね、噂」
かすみが楽しそうに言う。
「杏奈が広めたんでしょ、どうせ」
かすみは、
中学時代も一緒にサッカー部マネージャーをしていたからか、杏奈の性格を知り尽くしている。
「あぁ…もう…」
――なんで、こんなことに…。
俺がうなだれていると、
「いいじゃん、付き合えば」
かすみが笑顔で言う。
「あんたもいい加減茗子ちゃん追いかけるのやめて、他に目を向けたら?」
「うるせーな」
「杏奈ぐらい強引な子の方が案外上手くいくと思うわよ。中学からずっとあんたのこと好きだったんだし」
他人事だからって簡単に言いやがって。
――――でも、確かに…。
茗子ちゃんは今も春先輩をずっと想っているし、
別れたからって俺と付き合ってくれる訳ではない。
それに、弟の咲まで現れた…。
俺はこの辺で、
違う恋を見つけるべきなのかもしれない…。
「って、かすみは俺なんかと密会してて大丈夫なのか、弘也先輩にバレたら俺、マジで怖いんだけど…」
―――一応同じサッカー部の先輩の、彼女なんだから…。
「弘也は私と航のことなんて、全く疑わないわよ」
鼻で笑うようにかすみが言う。
その言動に俺はなんかムカッとした。
「ところで、去年同じクラスだった千鶴って子に聞いたわ」
「何を?」
―――こっちが本題とでもいうように、かすみが真顔で言う。
「修学旅行のことよ。―――春が額にキスしてくれたって…それはもう、嬉しそうに。」
かすみが淡々と話す。
「さらに隣のクラスに紗栄子って、千鶴と仲良かった子がいるから聞きに言った。―――どうやらそれを美穂が大袈裟にして茗子ちゃんに報告したようね」
「え、それって…」
――――じゃあただのすれ違いじゃねーのか?
ちゃんと話せば元に戻れるんじゃ…。
春先輩だって、
いまだに茗子ちゃんの隣をキープしてるし…まるで誰も近付かせないように。
「もともとちょっとした嫌がらせのつもりだったらしいわ。
でも春たちがそのあと別れたから、罪悪感感じてるみたいだったけど、紗栄子って子は。」
かすみがため息をつく。
「ってか、なんでかすみがそこまで真相を知りたがるんだよ。」
俺が言うと、
「だって気になるじゃない。あの二人がどうして別れたのか。」
――――まぁ、気にならないって、言ったら嘘になる。
バレンタインデーの日に、
バス停で泣いていた茗子ちゃんを思い出す。
信じられなくて、かける言葉もなくて…。
でも、茗子ちゃんが泣いているのを見たのは、
あの朝だけだった。
その日教室で見た時には、泣きはらした顔で笑ってた……。
まるで、何事も無かったかのように――――。
「春と付き合うなら、そういうのイチイチ真に受けてたらダメなのにね。」
かすみが切なそうに言う。
――――それは、誰に言ってるんだよ。
茗子ちゃんになのか?―――かすみ自身か?