口実から
バスケ部に、サクちゃんが本当に入部した。
中学まであんなにサッカー部で頑張ってたのに…。
本当、意味が分からない。
サクちゃんの練習姿を目で追いながら、ふと考えていた。
「茗子先輩、このビブスってどこに置けばいいですか?」
「へっ」
ずいっと凛ちゃんが突然視界に入ってきて、面食らう。
「あぁそれは……」
「茗子先輩って、もしかして澤野くんのこと、好きなんですか?」
一緒に片付けをしながら、凛ちゃんが私の顔を見ずに言う。
「サクちゃんのこと?」
私が確認すると、
「はい…」
片付けの手を止めて、赤くなりながら凛ちゃんが頷く。
―――凛ちゃんが可愛らしくて、ついクスッと笑ってしまう。
「違うよ、ただの幼馴染み」
私が微笑ましく思って言うと、
「そ…そうですか」
凛ちゃんがまた片付けをしながら、言う。
―――サクちゃんのこと好きなんだね。
「茗子、帰るぞ」
練習が終わって、サクちゃんが当然のように私に言う。
「あ…」
『一緒に登校するとかやめてください』
一年生の言葉を思い出す。
「わ、私ちょっと用事あるから…サクちゃん先に帰ってくれない?」
「なんだよ、用事って」
サクちゃんが不機嫌そうに言う。
――――えっと…えっと…どうしよう。
適当な言い訳が思い付かずに、あたふたしてしまう。
「茗子ちゃんは、俺と街に寄る用事があるんだよ」
いつの間にかハルくんが私の隣に来て、言った。
「な?」
「あ、うん!そう…そうなの」
とりあえずハルくんと口裏を合わせる。
「じゃあ俺も行く」
「馬鹿か、空気読め」
ハルくんがサクちゃんに冷たく言うと、
「行こ、茗子ちゃん。」
私の手をとる。
別れてから、手を繋いだのは初めてで…、
初めて手を繋いだみたいにドキドキした。
サクちゃんと一緒に帰らないようにする為の口実から、
思いがけずハルくん街に寄ることになり、
急に緊張する。
――――私は“妹”…。“妹らしく”しないと…。
必死に言い聞かせるけど、繋いだ手を離すことができずにいた。
「で、用事って?比嘉先輩とデート?」
ハルくんが歩きながら前を見て言う。
「え?」
――――なぜ比嘉先輩?
「…俺も帰った方が良い?」
ハルくんが切なそうな顔で言う。
手を離されてしまいそうな気がして、
私は本当の理由を話す。
「実は一年生から“サクちゃんと一緒に登校するとかやめてください”って言われてて。」
――――それに、凛ちゃんの気持ちを考えたら…。
「それで咄嗟にあんなこと…」
私が言いながらハルくんの顔をチラッと窺うと、
ハルくんがホッとしたような顔をしているように見えた。
「そっか」
ハルくんが言う。
――――手を…繋いだままで…良いの?
私…期待しても良いのかな?
「朝も…一緒に行くと気まずいから」
「じゃあ少し早い時間に変えよう」
「でも、サクちゃん…」
「あいつなら大丈夫、俺から言っておくから」
――――なんか、サクちゃんが拗ねて大変なことになる気がするけど…。
「あ、そう言えば!!サクちゃんて来週誕生日だよね?」
「―――あぁ、そうだったな」
私がふと思い出すと、ハルくんが素っ気なく返事する。
「あいつ誕生日祝うと怒るからな、家では最近何もしてなかったから忘れてた」
「そうなんだ…」
――――せっかく同じ高校だし、
なにか誕生日プレゼントをって思ったんだけど…。
「もしかして、誕生日プレゼントとか買おうとしてた?」
ハルくんが私の顔を覗きこんで言う。
「ハルくん…一緒に何か渡さない?」
ダメもとで聞いてみる。
ハルくんはため息をついたあと、
「…いいよ。でも今からお店まわるの?」
仕方なさそうに言った。
「あ、もう遅いもんね…」
時計を見ると、もうすぐ夜の7時。
「じゃあ、明後日の日曜。――練習試合終わったら、帰りに…買い物する?」
ハルくんが、私の顔を見ずに言う。
――――もしかして、気を遣わせてる?
でも…それでも久しぶりに二人で出掛けれるなんて…嬉しい!
「ありがと!ハルくん」
思わず笑顔で言うと、ハルくんが私からプイッと顔を背けた。
――――やっぱり、ハルくん…困ってる?
寂しく思いながらも、
帰るまで結局手は繋いだままだった。