恋敵~春目線~
「部員数、増えたな!」
昼休み、寛人が俺のクラスに顔を出していた。
「―――だな」
「なんでそんな嫌そうなんだよ。―――咲もまさかバスケ部入るとはなぁ!スポーツ推薦で入った一年とこないだ互角にやりあってたぞ、あいつ」
――――しばらく見ねーうちにでかくなったな…と寛人が笑う。
「あいつ、身体能力ハンパねーから」
俺が素っ気なく返事する。
「頭も良いよな、首席で…」
「――なぁ寛人。何しに来たんだよ。」
イライラして、つい口調が強くなる。
「お前さ…茗子ちゃんとより戻さなくて良いの?」
「は?」
「そんなイライラしてるのは、茗子ちゃんを咲にとられるのが嫌だからだろ!?」
「―――サクは関係無い」
――――イライラしてるのは、自分自身に、だ。
“妹”としてしかみてないから…なんて、
我ながらバカみたいなすぐ分かる嘘をついて、
一方的に別れたくせに。
もっと引き留めてもらえる、
もっと別れたくないってすがりついてもらえると思って、甘えていた自分に。
今さら言えるわけないだろ…
別れを切り出されるのが怖くて、自分から切り出したこと。
本当は今も変わらずに愛してることなんて…。
咲は、クリスマスの日の夜、俺の部屋を勝手に開けて、言った。
『せっかく諦めようと努力してやったのに。やめるわ、俺』
それからすぐ西高を受験した。
あいつが今、キラキラして見えるのは…茗子を好きな気持ちが溢れてるから。
――――こんなはずじゃなかったのに。
嫉妬で自分の性格がどんどん悪くなっていく。
「お前さ…その…修学旅行の時のことで別れたんだったら…あいつらにちゃんと話させた方がいいと思うぜ?」
言いにくそうに、寛人が言う。
「き、キス…なんて…額に触れたかどうかもわからないやつだろ。お前らが波風立たないようにと思って、聞かなかったことにしてくれなんて…俺が言ったから…」
「俺がしたことなんだから、寛人は悪くないだろ?」
―――あの時、ババ抜きで負けた安達千鶴さんに、一抜けした中野美穂さんが言った罰ゲーム。
『澤野くんとキスすること』
あり得ない命令に、凍りついた。
安達さんは泣きそうになるし、周りは早くしろとうるさく野次る。
ここで拒否すれば安達さんを傷付けるし…。
そう思ってつい、早く終わらせたくて額にキスをした。
自分の中では、なんの感情もない、ただの罰ゲーム。
あんなの、キスなんかじゃない。
――――――クリスマス、
比嘉先輩と俺に内緒で会っていた茗子に嫉妬して、あの時冷静に話ができる状態じゃなかった俺は、
茗子にちゃんとそのことを話していなかったことに、いま気がついた。
―――でも、今さら話してどうする?
茗子は比嘉先輩と上手くいってるのかもしれないのに――――。
別れ話をしたとき、
泣きながら走っていった茗子を追わずに見ていた自分。
でも、そのあとの朝練には、いつも通りの茗子だった。
そのあとも、ずっと…、
一度も、やり直したいとは…言ってくれない。
俺が言ったとおり、
付き合う前のように、隣に“妹”としていてくれる。
茗子は――――
本当はこうなることを、望んでいたのかもしれない…。
そう思うと、何も聞けないし言えなかった。