澤野兄弟と私
「茗子、ちょっとちょっとー」
朝、教室に入ると愛梨ちゃんと隣のクラスの彩と菜奈が私を待ち構えていた。
「春先輩だけでなく、あの首席でイケメンの弟まで一緒に登校するとか、本当どんだけなの?」
愛梨が興奮ぎみに早口で、かつ怒り口調で言う。
「兄弟そろって爽やかイケメン、しかも長身…頭脳明晰、運動神経抜群…まさにパーフェクト。それを独り占めする幼馴染み…。
―――マジ刺されるよ?」
彩がうっとりとした顔から一転、
私の目をじっと見つめ、真顔で言う。
私は笑うしかない。
――――そんなこと言われても…家も隣だし、
バスケ部で朝練の時間も同じだから…。
「まぁ、三年は茗子と春先輩のこと知ってるからまだ大丈夫だと思うけど…問題は、一年でしょ。
春先輩は生徒会長だから憧れてる一年も多いし。
咲くんは、もうすっかり有名人だし。
ファンも多いだろうから…茗子マジで気を付けなよ?」
菜奈が真顔で心配そうに言う。
――――彩も菜奈も…心配して来てくれたのか。
「ありがとね」
二人の気持ちが嬉しくて、微笑んで言う。
「全く…かわいいんだから」
菜奈がぎゅっと私を抱き締める。
――――大丈夫、皆がいてくれるから。
それに…ハルくんと別れてからは、
先輩達も前よりは丸くなったというか…当たりが弱くなったというか。
あの嫌がらせをしてきてた先輩達も、
修学旅行でキスしたと報告してきた先輩達も、
なぜか姿を見かけなくなったし。
別れてからの方が、
ハルくんの隣にいても、陰口をたたかれなくなった気がする。
―――サクちゃんは、
確かに前の中学の時からモテてたし、
きっとまた一年生の中で一番騒がれるんだろうな…。
「すみません、相田茗子先輩っていますか?」
一年生の女子が数人で私を探していた。
「うわ…まさか、澤野兄弟のファン?早速キター」
彩と愛梨が野次馬として騒ぐ。
「茗子、大丈夫?私も付き合おうか?」
菜奈が心配そうに言う。
「大丈夫大丈夫!相手は一年生だし。」
私は笑顔で言うと、一年生達の前に立った。
「私に何か用ですか?」
私が言うと、クラスの皆が黙り、
急に静まり返った。
「澤野くんとどういった関係なんですか?」
一年生の一人が思いきったように勢いよく言う。
「幼馴染みですけど」
私が即答すると、一年生が言葉につまる。
「幼馴染みだったら、色目使わないでください!迷惑です」
―――い、色目?
「み、皆の澤野くんをたぶらかさないでください」
「できれば話さないでください」
「てか一緒に登校とか、やめてください」
唖然としている私に、
言いたいことを言い切ったのか、
一年生は逃げるように去っていった。
―――――たぶらかす…そんなこと言われたのは初めてだ。
「茗子…大丈夫?」
愛梨と彩と菜奈が私の顔を覗きこむ。
「大丈夫大丈夫…」
私が苦笑いで答えると、
「モテモテの幼馴染み持つって、羨ましいと思ってたけど、大変なんだね…」
彩がしみじみと言う。
「幸か不幸か…」
愛梨も呟いた。
――――こんなに目立つ兄弟と幼馴染みじゃなければ、もっと穏やかに二人とも仲良くいられるのに…。
干渉されずに、
罠をしかけたりされずに、
嫌がらせされたりせずに、
楽しく過ごすことが出来たのに―――。
二人とも…カッコ良すぎだよーーー。