恋バナ(甚と航 編) ~航目線~
「ハァ…」
「あー、マジうぜー」
甚が俺のため息を聞くと、
イラつきながら言い放った。
部活を引退したが、後輩に頼まれて、
顔を出して少し練習に付き合った後、
部室で着替えながら、甚が俺を睨む。
「おぃ、それはひどいだろ…」
ーーー自分は菜奈ちゃんと上手くいったからって。
「だってお前、さっきから携帯触ってはため息って…どんだけだよ…。」
「連絡したいんだけど、勇気が出なくてーー」
「もう、あと夏休みも半分だよな~、航がモタモタしてるうちに、終わるな~」
ーーー簡単に言いやがって…。
悔しいが、なにも言い返せず、グッと堪える。
「航って、残念なイケメンだな、せっかくモテるのに、まさかの茗子を好きになるとは…」
「甚、それどういう意味だよ!」
「茗子だけはやめとけって、最初に忠告しただろ。あいつは、昔っから春先輩しか見えてないんだって。」
「でも、キスはした…」
「えっ?嘘だろ…」
甚が絶句する。
「なんでだ…?」
俺が呟くと、甚がすかさずつっこむ。
「俺が聞きたいわ!」
茗子ちゃんがあのときどうしてキスを
受け入れたのか、未だに理解できなかった。
俺が勝手にしたんだけど、でも…。
どう考えても、拒否だって出来たのにーーーー。
引退試合の、あの大会の日、
甚に聞いて俺は初めて、春先輩に弟がいると知った。
試合終了と同時に、
あいつが応援席にいた茗子ちゃんの方を見ていたことも。
あいつが、茗子ちゃんを想っていることも、
すぐ気付いた。
その後の花火大会で、
浴衣姿の茗子ちゃんが可愛すぎたこと、
それを、春先輩に着せてもらったという、嫉妬。
そして、あの弟の存在に焦った俺は、
いきなり告ってしまい、さらに勢いでキスしたり。
その結果、
せっかく友達として、
時間をかけて距離を縮めて、
ようやく甚の次に仲良くなれたと思っていたのに 、
自ら壊すことになった。
「とりあえず、こないだ家まで行って、謝ってきたんだろ?」
「まぁ…」
「友達としてなら、誘っても大丈夫って言ってたんだろ?ま、茗子のことだから、そう言いながらも、絶対避けるな!」
「だよな…」
他人事のように甚が言うが、
その言葉は、
こないだの公園での様子そのものだったから、
否定もできない。
「まぁ、俺と菜奈も、協力するからさ」
元気出せって、と肩をバシッと叩かれる。
まだ、茗子ちゃんには気付かれてない、
今がチャンスだから。
モタモタしていられないのは分かってる。
ーーー春先輩とかすみのこと。
二人は、もう付き合ってないこと。
知ったら、きっと茗子ちゃんはーーーー。
「よし!メール、する!……明日こそは。」
「航………マジ、乙女かよ…」
甚が呆れて、俺を置いてさっさと部室から出ていく。
「おい、待てよ」
「悪ぃ、俺、これから菜奈とデート」
ヒラヒラと軽く手を振って、甚は帰っていった。
「リア充が!!」
悔し紛れに、言って、俺はまた携帯を見つめる。
「ハァ…」
帰り道、またため息をついていると、
「あのぉ、長岡中の、仲西さんですよね?」
いきなり目の前に一人の女の子が立っていた。
ーーー誰だ?
「あたし、優美中のサッカー部マネージャーです。こないだの試合、お疲れ様でした」
ーーーあぁ、こないだの。
あいつがいる私立中か。
「なんか用?」
「ちょっと聞きたいことあって。」
俺は素っ気なく言いながら、横を通りすぎて歩き出す。
女の子は、特に気にせず、並んで歩く。
「相田 茗子さん、知ってますよね?」
その言葉に、思わず足が止まる。
「彼女さん、ですよね?」
「なんなの?」
ーーー今、その話題、本当勘弁なんだけど。
「私、茗子さんが邪魔なんです」
微笑んでいるが、目が笑っていない。
「あの人がいると、咲ちゃんが私のこと、いつまでも本気になってくれないし」
「咲……?」
聞きながらも、それが誰の事か、何となく察した。
春先輩の弟のことか……。
「しっかり、捕まえといてくださいね、こないだの花火大会の時みたいに」
バカにしたように笑うと、彼女はもと来た道を引き返して行った。
「え…?」
見られてた?
花火大会の日、
キスしたことを思い出して、
自然と口元を片手で押さえる。
ーーー何で思い出させるんだよっ!
結局、その日も、
連絡をとれずに終わってしまった……。