言葉にならない気持ち
「あの…澤野先輩。ちょっとお話が…」
部活のあと、ハルくんに言われ、
一緒に帰ろうとしていると、
同じ一年生の…違うクラスの女子が、ハルくんを呼び止めた。
「なに?」
ハルくんが無表情で尋ねる。
「あの…ここじゃ、ちょっと」
私をチラッと見ながら、その子は言う。
「ここで話せない話なら聞けない。ーーー帰ろう、茗子“ちゃん”」
そう言ってハルくんは歩き出した。
ーーーー告白、だよね…今の子…。
それすら、させないんだ…。
ハルくん、変わったな…。
今までも変わらずに隣を歩いていたはずなのに、
今、隣を歩くこの人は、
私の知っているハルくんじゃない、
まるで別人のようで…なんだか切ない。
私がハルくんを変えてしまったの…?
「どうした?」
ハルくんが心配そうに聞く。
「ううん、なんでもない…」
「そっか…」
会話もなく、お互いの家の前に着く。
「明日からも、一緒に行こう?同じバスケ部なんだから」
「…うん」
私が、なんとか頷く。
「じゃあまた明日な、おやすみ」
「おやすみ…なさい」
ーーーー笑顔で言うと、ハルくんは家に入っていった。
なんで…笑顔なの…。
どうしてそんな簡単にこの気持ちが無かったことに出来るの、ハルくん…。
一緒にいると、こんな泣きたい気持ちに何度も襲われる。
それでも…隣にいたいなんて…私は本当に愚かだ…。
自分で自分が嫌になる。
ーーー忘れるには、ハルくんと関わらない方がいいのに…。
ーーー忘れたくない。ハルくんを好きな気持ち。