夢
「茗子、ちょっと」
昼休み、菜奈と甚が私の前に現れた。
屋上の、人のいないところまで行くと、
二人が振り返る。
「どうしたの、二人…」
ーーーーなんだか、懐かしいな…。甚と菜奈が一緒にいるなんて。
「茗子、こないだはごめん。ひどいこと言って」
「ううん、私の方こそ…」
私も菜奈に謝ると、甚と菜奈が目をあわせて微笑みあう。
「ーーー茗子、別れたって聞いたけど、何があった?」
甚が話を切り出す。
「……ハルくん修学旅行の時、同じクラスの人とキスしたんだって」
「「えっ」」
二人が同時に驚く。
「なんで、そんなこと…」
菜奈が言う。
「分からない…ハルくんに聞いてもあんなのキスじゃないって…怒っちゃって」
「んだよ、それ…」
甚が怒りをあらわにする。
「でも…それを私が許せなくて」
「許せるわけないよ、だって春先輩が悪いんでしょ?」
菜奈も私を庇うように言う。
「でも今日、久しぶりに会ったと思ったら“茗子のことは、もう妹としてしかみてないから”って…」
「私が言うのもどうかと思うけど、それ…酷すぎる…」
「本当な」
甚が菜奈を冗談半分に睨む。
「ーーーーでもさ、なんか…朝さんざん泣いたらなんか…全部夢だったのかなって」
私は二人に微笑んで言う。
「だって、ハルくんと付き合えるなんて、夢にも思ってなかったんだし。この一年間、すごく幸せだったから…もう良いの」
「茗子…無理すんな」
甚が優しく言う。
「うちらの前でまでそんな顔しないでよ」
菜奈も私よりつらそうな顔で言う。
「ありがとう…」
ーーーーごめん。二人とも、心配かけて…。
二人に甘えたら、私きっと…どんどんダメになる。
いつまでも、すがってしまうと思う。
もう、誰にも…迷惑かけたくない。
…航くんにも、サクちゃんにも。
ハルくんが好き。
だけど、
私と付き合うことがハルくんの為にならないのなら、
いっそのこと、彼女にならなくてもいい。
約一年、ハルくんの彼女になれた。
それで充分じゃないか。
ーーー幸せだった…夢のような時間。
いや、全てが、夢だったんだ。
そう思い込むことで、なんとか平常心を保つ。
そう思い込まないと…心が壊れてしまう。