決死の覚悟 ~咲目線~
春の部屋のドアがバンッと閉まる。
ーーーなんだ?あいつがあんなにドアの音立てるなんて…。
茗子のお母さんとうちの母さんは、
楽しそうに盛り上がってて春が帰ってきたことにも全く気付いていなかった。
「おい、茗子は?」
ドア越しに話しかけたけど、返事がない。
足音は一人だったし。
茗子とケンカでもしたのか?
俺は様子を見に、相田家の玄関を開ける。
ガタンッとリビングの方から物音がして、
慌てて行ってみると、
リビングの床に座り込んで震えている茗子の背中が目に入ってきた。
「大丈夫か、茗子!」
俺が茗子に声をかけると、顔をあげた茗子が泣きながら驚いた顔をした。
「サクちゃん、なんで…」
「春が荒れて帰ってきたから、気になって」
「うわぁあー」
俺が言うのと同時に、
茗子がいきなり抱きついて声をあげて泣いた。
小さい頃、俺がいじめてもこんなに泣いたこと無かったのに…。
なんだよ、なんでこんな泣くんだよ…。
驚きと、やるせない気持ちを抱きながら、
茗子を抱き締め、背中をトントンとあやすようにする。
しばらくすると、ピタッと泣き止み、
茗子の体から力が抜けた。
「え、茗子…?」
そっと腕を緩めると、茗子の体が寄りかかる。
「ね、寝てる…?」
ーーーーおい、マジかよ…。寝るなよ…。
俺は理性を保ちながら、茗子を抱き上げて部屋まで運ぶ。
部屋のベッドにそっと降ろす。
「なんで…?」
寝言なのか、茗子が呟く。
涙のあとをそっと指で拭う。
茗子の泣きはらした顔をじっと見つめる。
ーーーーせっかく、忘れようと努力して、“弟”としてまた仲良くなろうと思ってたのに。
こんな姿…見せんなよ…ばか茗子。