プチ・ホームパーティ
夕方より前に、図書館から家へと向かう。
あたりはまだ明るく、昼間みたいに暑さもある。
家の近くを歩いていると、
ハルくんのご両親に会う。
「こんにちは」
「あら、茗子ちゃん。今日は宜しくね!」
「?何がですか?」
訳が分からず、首をかしげる。
「あら、お母さんから聞いてなかった?今日私たち同窓会なのよ。そしたら、茗子ちゃんのお母さんが、春と咲に、ぜひお夕飯をって言ってくれて…」
「そうなんですね…」
朝のお母さんの様子を思い出して、納得した。
「助かっちゃったわ、ありがとね!お礼に今度、うちにもごはん食べに来てね」
「あ、はい…」
「じゃあ、行ってきます!!」
ハルくんのお母さんは、お父さんと嬉しそうに出掛けていった。
―――二人は、中学時代の同級生だって、言ってたっけ。
「ただいまー」
家に帰ると、お母さんが満足そうに私を出迎えた。
「おかえり!どう?キレイになったでしょ?」
「……お母さん、今日ハルくん来るから掃除とか頑張ってたのね…。」
「あれ?なんで知ってるの?」
「今、そこでおばさんから聞いた。」
「なんだぁ、茗子びっくりさせようと思ったてのに!!残念だわ」
「…いや、びっくりしてるから、大丈夫。」
とりあえず、自分の部屋に戻りひと息つく。
ハルくんが図書館で言ってた“今日”って、
この事だったのか―――。
一人、部屋でソワソワして、そうこうしているうちに夕方六時になり、家のチャイムが鳴る。
「こんばんはー」
ハルくんの声だ!!
バクバク鳴り出した心臓を、
なんとか意識しないようにする。
「はーい、春くん、どうぞ上がってー!」
「お邪魔しますー」
お母さんとハルくんが話してるのが聞こえる。
階段からその様子を覗いていると、
ハルくんに気付かれた。
「こんばんは、茗子ちゃん」
「こんばんは…」
目を伏せてあいさつする。
「はい、春くんはここ、座って座って!」
嬉しそうにお母さんがハルくんに言う。
「ありがとうございます」
勧められた席にハルくんを座らせると、
私に声をかける。
「めいこ、ボサッとしてないで、ほら、手伝って」
「はぁい」
料理を運び終えて、席につこうとして、
お母さんが思い出したように、ハルくんに尋ねる。
「あら?そう言えば、今日咲ちゃんは?」
「あ…部屋には居たんだけど。声かけても返事なくて」
ハルくんが困ったように言った。
「じゃ、ちょっと茗子、咲ちゃん連れてきなさいよ」
「え、それなら俺が……」
「春くんは!おばさんの相手してよー、久しぶりに話すんだし」
優しいハルくんは、昔からお母さんには全く逆らえないらしく、
「じゃあ、これ」
私に家の鍵を預けてくれた。
とりあえず、家の呼び鈴を押してみたけど、
サクちゃんが出てくる気配もなく、
ハルくんに借りた鍵で玄関を開ける。
二階の一番奥、
サクちゃんの部屋に来るのはいつぶりだろう。
「サクちゃん?あ、じゃなかった!サク…?」
軽くノックして、声をかける。
返事がない…。
なんか、音楽かかってる…?
そのせいで聞こえないのかな?
「入るよー?」
ドアを開けると、私の目に、
信じがたい光景が飛び込んできた。
「ごめんなさいっ」
慌ててドアを閉める。
床に脱ぎ散らかった服。
ベッドに女の子と、
その上に覆い被さるようにしてたサク……。
しばらくして、
女の子が部屋から飛び出してきた。
目が合うと、
私を睨むようにして、帰っていった。
「……茗子?」
サクに呼ばれて我に返る。
「えっと、サクちゃ、サクを呼んでこいって、うちのお母さんに言われて―――」
全く顔が見れない。
「あぁ、今日言われてたな、そう言えば」
素っ気なく言われる。
「ごめん、邪魔するつもり、なくて」
「別に良いよ、暇潰しだし。」
「え…」
暇潰しって……。
ひどいよ…。
相手の女の子の気持ちを考えると、
かわいそうになる。
どうしちゃったの、サク……。
「なんか、変わったね…サク」
それだけ言うと、咲を置いて、
階段を駆け降りて、ひとり、家へと戻る。
「ちょっと、咲ちゃんは?」
お母さんに聞かれ、
「あ、うん、来ると思うよ…」
曖昧に返事をする。
「ちゃんと呼んできたの?」
「呼んだってば」
お母さんへの返事に少しイライラが混ざった。
「こんばんはー」
しばらくして、サクが来た。
来てくれたんだ…。
来ないと思ったのにーーー。
「あら、咲ちゃん、しばらく見ないうちに、こんな背が高くなったのー?」
「おかげさまで」
「何いってるのー、ほら、座って!!」
お母さんと楽しそうに話す、
サクを見て切なくなった。
ここにいるのは、
私の知ってるサクちゃんなのに――――。
なんだか、サクが知らない男の人に見えてしまう。
ハルくんも、お母さんとサクと、
楽しそうに会話してる。
私だけが、
胸の中にモヤモヤしたものを抱えて、
会話に入れないでいた―――。