爆弾
ーーーー試合は、70ー58で、負けてしまった。
やっぱり全国レベルになると、身長差も違うし、
シュート率も違う。
三年生が抜けて、二年生が主なメンバーになり、
まだまだ課題が多いようだった。
「残念だったね」
私が片付けをしていると、さっきの先輩達三人に声をかけられた。
「わざわざ応援に来ていただいてありがとうございました」
私が頭を下げると、
「ふふ、彼女としての挨拶?余裕ね」
さっき目があった先輩が言う。
「いや、そんなつもりじゃ…」
ーーーーもしかして、気に障った?
慌てて謝ろうとすると、
「良いの良いの。相田さんは澤野くんの彼女、そんなの皆知ってるし。」
「澤野くんが彼女一筋なのも…ねー?」
先輩同士、頷いて言う。
「なんか、ごめんね。それなのにこないだ澤野くんに浮気みたいなこと、させちゃって」
クスクス笑いながら、先輩の一人が言う。
ーーーー今、何て言った…?“浮気”?
私は耳を疑った。
「浮気だなんて、あんなの浮気には入らないでしょ?美穂ったら」
「そっか、でも、千鶴とチューしてたよね、修学旅行で」
「やめなよ、彼女の前で。」
千鶴と呼ばれた人が頬を赤く染めて言う。
「大丈夫、本気じゃないから。ただの思い出作りだし。」
千鶴さんが言う。
ーーーー本気じゃない?思い出作り?
頭の中がグチャグチャで、混乱している。
「あ、お前ら…」
寛人さんが、三人に囲まれてた私の間にダッシュで入ってきた。
「余計なこと、言ってないだろーな」
「余計なこと?」
美穂さんという人が、寛人さんに近づきながら聞く。
「それって、修学旅行の最終日の夜のこと?」
「………っ」
寛人さんが言葉を失なってうろたえた。
ーーーー修学旅行の最終日の夜、ハルくんが千鶴さんとキスした。
それを寛人さんも知ってて…私にバレないようにしてた…?
寛人さんが何も言わないのは………
それが真実だから…。
なにそれ…なんでそんなこと…。
ーーーここで泣いたら、先輩達の思う壺だ…。
悔しいから泣かないようにグッと堪える。
「はい、もう終わったんだし、帰れ帰れ。春なら他のチームのやつに引き留められてるから会えねーよ」
寛人さんが三人を無理矢理追い返す。
「……茗子ちゃん…ごめん」
「なんで先輩が謝るんですか?」
ーーー寛人さんを責めたって仕方ないのに…。
知ってて黙っていたことに、ショックを隠しきれず、つい冷たい口調になる。
「俺があの時…誘わなければ」
「………」
ーーーーあの時って、いつ?私はその場に居なかったから、何も知らない。
その場に…居れなかったんだから。
「本当、春は何も悪くないんだ。だから春を責めないであげて。出来れば聞かなかったことにしてくれない?」
寛人さんが私の前で、手を合わせて懇願する。
「分かりました…」
私が頷くと、寛人さんが心底ホッとした顔をして、
「ありがとうっ」
と私の両手を握った。
「何してんだ、寛人…」
ちょうどその時、ハルくんが帰り支度を終えて私達の前に現れた。
バッとお互い手を引っ込める。
「いや、今日はありがとうーとかって茗子ちゃんにお礼を…ね?」
ね?と寛人さんが私に同意を求めるので、
「うん…」
私も笑顔をつくって頷く。
「ふーん。じゃあ手とか握らなくていいから」
ハルくんが寛人さんを睨みながら不機嫌そうに言う。
「ごめんごめん、つい、な」
笑いながら寛人さんが部員の皆に帰ろうと声をかける。
隣に来たハルくんは、
試合に負けてしまったからか、
それとも、
寛人さんが私の手を握っていたことに嫉妬しているのか、不機嫌そうだった。
私は、修学旅行でのことが気になって、
頭の中はその事でいっぱいになっていた。
ーーーー聞かなかったことにする、なんて…。
無理に決まってるのに…。
聞いてしまったら、後悔する。
傷付くのは、私。
千鶴さんにキスしたのはハルくんなのに、
ーーーどうしてハルくんが悪くないの?
泣かないようにするのが、精一杯で、
帰り道のことは、何も覚えていない。