帰ってくる日
「おはよ、茗子ちゃん」
「おはよう」
ハルくんが修学旅行から帰ってくる日の朝、
バス停で、甚と航くんに会った。
「おはよう」
二人に挨拶を返す。
「今日だっけ?春先輩帰ってくるの」
「うん…」
ーーーやっと今日会える…。
考えただけで笑みが溢れる。
「…嬉しそうだな、茗子」
甚がニヤニヤしながら、言う。
…………甚を見ると、
つい菜奈のことが浮かんで、私はいつも通りに話せない。
「菜奈のこと、気にしなくていいから」
甚が私の心を読んだかのように、言った。
「俺も、もう気にしてない。いや、気にしてないってのは嘘だけど。ーーーー菜奈の幸せは壊したくないから邪魔する気はない」
「甚…」
「だから、お前がそんな顔すんな!!お前は俺らと違う。春先輩は、大丈夫。」
ーーー甚が、つらいのに…なんで私を励ましてるの?
「お前、今完全に俺の存在無視してるよな」
航くんが甚の横から口を出す。
「航は、しつこい!お前もさっさと次行け、次!」
甚が航くんをどつく。
「?」
二人の会話はよく分からなかったけど、
甚は航くんのお陰で元気になりつつあることは分かった。
「ありがとう」
甚と別れて航くんと教室に入るとき、
私は航くんに言った。
「甚の側にいてくれて」
「茗子ちゃんがお礼言うの、おかしいだろ」
航くんが笑って言った。
「友達なんだから、当たり前だろ」
「そっか。でも、私にはしたくても出来なかったから。」
ーーー甚がつらいとき、側にいたかったけど…。
サッカー部のマネージャーでもないし、同じクラスでもない。
菜奈の親友だから、どうして良いのかも分からなかった。
「茗子ちゃん、優しいな」
航くんが優しい顔で言った。
「だから……」
航くんが何か言いかけて口を押さえる。
「?航くん?」
続きを聞こうと航くんを見つめると、
「何でもない、じゃあ…」
航くんは自分の席に行ってしまった。
………『だから……』何?
放課後、体育館へ行くと、
部活のメンバーに、二年生が戻ってきていた。
ーーーーハルくん!
「茗子、ただいま」
ハルくんが私に気づいて、近付くと、頭を撫でる。
「おかえりなさい」
抱きつきたいのを我慢して、私は応える。
ーーー会いたかった…。
部活が終わり、家に帰ると、
「あ、母さんが夕御飯に茗子連れて来いってメール来てた。…茗子、うちで夕御飯ちゃんと食べてなかったのか?」
「え、ううん…昨日はご馳走になったよ」
私が言うと、
「また遠慮したのか…」
ハルくんがため息をつく。
「………」
「着替えたら、おいで」
ハルくんがそう言いながら、自分の家に入っていく。
夕御飯をハルくんの家で食べてから、
二人で私の家に帰る。
「これ、お土産」
「ありがとう」
ーー箱を開けてみると、装飾の綺麗なオルゴールが入っていた。
中が小物入れになっている。
「あと、チョコレート」
「こんなに?」
「おばさんたちと食べて」
「ありがとう」
「ー………」
会話が途切れて、なんだか緊張する。
ーーーすごく久しぶりに会う気がして…、なんか恥ずかしくて顔が見れない…。
オルゴールに視線を落としていると、
「茗子」
ハルくんが私の頬に手を添える。
ドキドキしながら、ハルくんに視線を合わせると、
唇が塞がれた。
「………んっ」
舌が入ってきて、濃厚なキスに翻弄される。
「ん…は、っ…ハルくっ…」
待って待って……待って…
だんだん、抵抗する腕に力が入らなくなる。
ーーーーハルくん…?