修学旅行中に ~春目線~
「澤野くん、ちょっと良いかな?」
ホテルで夕御飯を食べ終わり、部屋に戻る途中で、同じクラスの女子に声をかけられる。
「お前、本当すげーな…」
寛人が呆れたように俺を見る。
---またか。
「話って何?」
俺が人気のない所までついていって、
先に口を開く。
「私ね、ずっと…澤野くんが好きで…」
「………」
「これからも…好きでいても良い?」
潤んだ瞳で見上げてくる。
「ーーー俺、彼女いるから」
「知ってる…でも私は」
「ーーーもういいかな?部屋戻らないと」
「澤野くん…」
泣き出す女子を置いて、俺は部屋に戻る。
ーーーーごめん、でも…優しくすると、きっと茗子が悲しむから。
部屋に戻ると、
相部屋の寛人と、あと同じグループの山田と佐藤が騒ぎ出す。
「春、お前……この修学旅行に何しに来てんだ?」
「告られるために来たんなら帰れー!」
「お前ばっかりモテやがってー!」
「………」
ーーー人の気も知らないでコイツら…。
「ーーーあ、怒った?ごめんごめん…」
俺が無視すると、寛人が悪ノリしたことを謝る。
四人でホテルの最上階にある温泉に浸かり、ホテルの浴衣を着て部屋に戻る。
「…お前、隠し撮りもされてるよな…。女子たち、観光地を撮るふりしてお前撮ってるとこ、俺見ちゃったし…」
佐藤が思い出したように言う。
ーーーマジかよ…。気付かなかった。
「モテるのも、困りもんだな…」
それを聞いて山田も同情してくる。
「じゃあ、俺たち女子の部屋行ってくるわー」
佐藤と山田は俺と寛人の部屋を出ていこうとする。
「寛人も来るか?」
「行く行く!ーーー春も行こうぜ?」
寛人が俺を振り返って誘う。
「いや、俺は…」
「思い出作りだろー、行こうぜ、ほら」
無理やり腕を引っ張られる。
「そうだな、春がくれば女子のテンション違うしな」
山田も一緒になって、俺を連れ出そうとする。
ーーーー思い出作りか…確かにな。
相変わらず女子との距離感がつかめなくて、
避けてきてたけど…。
最後の思い出くらい、コイツらと騒ぎたいし。
ーーー俺も一緒に行くことにした。
「こんばんはー」
女子の部屋をノックすると、
「え!うそ…澤野くんも来てる!!」
「ちょっと待って私すっぴんだし…」
慌てて女子が支度し始める。
「春がいなかったら、すっぴんでも良いってことかよ…」
寛人がため息混じりに言う。
「ーーートランプしようぜ、トランプ。」
「じゃあ、ババ抜きからかな」
「罰ゲームしようぜ、負けたやつ」
「罰ゲーム?」
佐藤の提案に皆が聞き返す。
「一番に上がった人が、最後ジョーカー残った人に、罰ゲームとして何でも言える権利!」
佐藤が、楽しそうに言う。
「えー何それー」
「王様ゲームみたいー」
女子達は文句を言う。
「おい、春…。」
隣にいた寛人がこそっと言う。
「お前…女子に狙われてるぞ…負けるなよ」
「え、だって嫌がってるし罰ゲームは無しだろ?」
俺も小声で返す。
「馬鹿か…嫌がってるふりだ。どう見ても全員戦闘モードだろ」
「え…」
俺が驚いていると、
「ちょっと寛人、なに澤野くんとこそこそ喋ってるの?」
女子に突っ込まれ、寛人が慌てて輪の中に戻る。
「べつに?何でもない」
寛人が笑いながら言う。
ババ抜きが始まると、
確かにゲームを楽しんでいる人はいない………
みんな真剣な顔で…なぜか必死になっていた…。
ーーーーなんだよ、この空気…。
やっぱり自分の部屋に残れば良かった…。
「!!」
そんなことを考えながら何気なく寛人の手からトランプを選ぶと、ジョーカーだった。
ーーーー嫌な予感が…する。