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いっこの差  作者: 夢呂
【第一章 】
15/283

図書館

夏休みも半分過ぎたある日。

朝からお母さんが料理やら掃除にバタバタしている。


私は結局、仲西くんとあれ以来会っていない。


菜奈も甚とデートだし、以前のように三人で過ごせないことに寂しさを覚えながらも、

図書館で課題をする毎日ーーー。



「あら、茗子、今日も図書館?」

「うん、多分」

「あ、夕方までには帰ってきてね、今日は頑張ってごちそう、作るから!!」

「え、今日なんの日だっけ?」

「いいから、あとであとで!!あぁ、忙しっ!」

ハイテンションはいつものことだけど、

なんだか浮かれてる。


「じゃあ、行ってきます」

「はぁい、気をつけて」

遠くからお母さんの声を聞きながら家を出る。


「あ、おはよー、茗子ちゃん」

後ろから声をかけられる。

ドキッとして振り返ると、やっぱりハルくんだった。

「おはよ…」

ぎこちなく挨拶すると足早に歩き出す。


「…こないだ、花火楽しめた?」

早足で歩いてるつもりなのに、

ハルくんは普通に並んで歩き出す。

「うん」

平然を装い、返事する。


「ありがとね、浴衣着せてくれて」

「どういたしまして。それより今日ーーー。」

「あ、私、今日約束があって。急がなきゃ、じゃあまたね」

なにか言いかけたハルくんの言葉を遮って、

早口に告げると、走って図書館に向かう。


空いている席に座って一息つくと、

隣のイスをひく音がする。


「約束って?」

顔をあげると、ハルくんだった。

笑顔で私の顔を覗き込む。


嘘がバレたーーー。

私は頭が真っ白になる。

ーーーどうして、ここに?



「何、夏休みの課題?」

ハルくんが私が開いていた数学の問題集を見て言う。

私がついた嘘には、触れてこなかった。


「うん、ここからが苦手で…」

「どれ?見せて?」

長い睫毛に、サラサラの黒髪、

大好きな横顔に釘付けになっていると、

ハルくんが顔をあげた。


反射的に目をそらしてしまう。


「これはさ、この公式を使ってーーー。」

ハルくんが説明してくれる。


二時間くらい経って、

キリの良いところで休憩しようと席を立つ。


「終わったの?」

ハルくんが読んでいた本を閉じる。


ーーーなんで、隣にいてくれるの?



私は外にある自動販売機で、飲み物を買う。

コーヒーと、お茶。

コーヒーをハルくんに手渡す。

「はい、これ、お礼」

「え、何の?」

ハルくんが首をかしげる。


「さっきの勉強と、こないだの浴衣のお礼」

「いらないのに。ま、もらっとく!!」

ありがとなって笑顔で受け取ってくれた。


「彼女さん、良いの?」

聞きたくなかったくせに、どうしても気になるから聞いてしまった。

「彼女?」

「……かすみ先輩だよ」

「あぁ、茗子ちゃん、もしかして勘違いしてる?確かに去年まで付き合ってたけどーーー」

「へ?」

ーーー勘違い?

「俺、フラれたんだ、去年の夏休み。」

「え……なんで?」

驚いて、理由を聞こうとハルくんを見る。

「……つらいって、一緒にいても」

ハルくんが悲しそうなのを隠して笑う。


「つらい…?」


「よく分かんないけどさ、突然、泣き出して…。俺は好きだったんだけど……、まぁフラれたんだ。だから、恥ずかしいって言ったろ…。」


以前にバス停でお弁当を届けたときのことを思い出す。

そう言えば……、付き合ってたとか聞いてたけど、

今も付き合ってるとは…言ってなかったかも。



「めいこちゃん?」

ハルくんが顔を覗き込む。

「今でも、好きだったり…するの?」

「いや、彼女、もう他に彼氏いるから。」

「え、そうなの?」


「それよりさ!」

この話はおしまい、とでも言うように

ハルくんが明るく言う。

「今日のこと、聞いた?おばさんから。」


「今日?」

「いや、聞いてないなら、言わない」

なんだか悪戯っ子のような含み笑いで、

それだけ言うと、

ハルくんは飲み終わったコーヒーをゴミ箱に捨ててから、

「じゃ、俺、帰るわ。またね」

と行ってしまった。


「………」

急にいろんな情報が入ってきて、

混乱したままの私を残してーーー。



暑さをしのぐために、

再び図書館に戻ったけど、

勉強なんて、手がつくはずもなく。


ただ、テキトーに選んだ本をペラペラめくる。

文字が目に入るけど、内容はなに一つ入ってこない…。



ーーーーハルくん、

私……諦めなくてもいいってこと?















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