巡回中に~春目線~
「何考えてるんだよ」
仲西航が、咲に連れられていく茗子を見ながら言った。
「何が?」
「あんたの弟…茗子ちゃんが好きなの分かんないのかよ」
俺が聞き返すと、仲西は苛立って言った。
ーーーそんなこと、言われなくてもずっと前から知ってる。それに………
「キミには言われたくないな」
ーーー咲より今、茗子を想ってるヤツに。
俺達が睨みあったまま動かないでいると、
「澤野くん、巡回の時間」
隣にいた実行委員の天野さんに言われて、我に返る。
「あ、ごめんごめん。行こうか」
俺は仲西を一瞥して、仕事に戻る。
「澤野くん、良かったの?彼女、行かせちゃって」
天野さんが言う。
「あれ、俺の弟だから」
素っ気なく答える。
「え、弟いたんだね」
「うん、まぁ」
ーーーー咲は私立の中学で、
中学も別々だったからか、俺の弟の存在はあまり知られていない。
なぜ私立の中学をわざわざ受験してまで選んだのか…その理由を知ったのは、最近になってからだった。
咲は、咲なりに、色々悩んでいた。
そして今、茗子への気持ちにキリをつけようとしている。
ーーー“弟”として、茗子を慕っている。
「弟さんも、超かっこいいのね、何歳なの?」
「15だよ」
「え、高校生かと思ったー。大人っぽいね!!」
天野さんの言葉に、ただ笑顔で応える。
天野さんの顔が赤くなって、黙りこんだ。
ーーーーこれ以上は踏み込んで来ないでくれ。
「あら?春くん?」
「…莉子先輩」
今年の三月に卒業した、去年の“ミス西高”の花井莉子先輩が、にこやかに近づいてきた。
ーーー香水の香りが鼻につく。
「久しぶりね」
「先輩、大学は?確かーーーー」
俺の口を人差し指で触れて止める。
「ねぇ春くん。あとでゆっくり話しましょ…」
「ーーーあの人…確か去年のミス西高の…」
天野さんが、颯爽と立ち去る莉子先輩の背中を見ながら言う。
「なんか、すっごい色っぽい人…」
ーーーー俺も…先輩と、後で話したい。